いしわたり淳治が選ぶ今年の洋楽、真っ先に浮かぶ『Beautiful Things』
身近なスライサーの存在
10月15日放送の日本テレビ『上田と女がDEEPに吠(ほ)える夜』でのこと。近頃は他人の時間やお金や労力を薄く削る人のことを「スライサー」と呼ぶのだそうだ。例えば、「遊ぼうよ」「ご飯行こうよ」などと誘っておきながら、時間と場所とメンバーは相手に丸投げで任せる人や、待ち合わせにちょっとだけ遅刻する人、他人の物を借りて使う人、などがスライサーに当たるらしい。まだ名前のなかった不快に、またひとつ新しい名前がついたようである。 自分の周りにはスライサーはいるだろうかと考えた時、子供なんてもう存在自体がスライサーじゃないかと思った。子供は朝起きてから寝るまで親の時間と体力を削り続けるのが仕事といってもいいかもしれない。それでも子供のうちは、まだ可愛いものである。頼むから大人になっても親のすねをイタリア料理屋の生ハムのようにじわじわ削るような人間にはならないでほしいものである。
マイナスイオンはどこへ
先日、ドライヤーが壊れた。いつから使っていたのか思い返してみたら、15年も使っていたようで、そりゃあ壊れても仕方がないなと思う。さすがにドライヤーがない生活は困るので、近所の家電量販店へ行くと、並んでいるドライヤーのあまりの進化に驚いた。さながら浦島太郎の気分である。昔あれほどありがたがっていた“マイナスイオン”なんて言葉はもはやどこにもなくて、それぞれのメーカーが独自の技術で、いかに熱から髪を守りながら素早く乾かすかの、しのぎを削っていた。 今日何となく買ったドライヤーを、また向こう15年も使うかも知れないのだと思うと、現時点での最上位機種を買わない理由はなく、なかなかの高額ではあったが、おかげでたかだか5センチ程度の私の頭髪は、乾かすたび驚くほどにしっとりつやつやである。 それはそうと、告知がひとつ。この連載が『言葉にできない想いは本当にあるのか 2』として書籍化されることになりました。発売日は12月9日。直近3年くらいの原稿を中心に再編集したもので、書き下ろし原稿も収録されています。どうぞよろしゅう。 ■著者プロフィール いしわたり淳治 作詞家・音楽プロデューサー 1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビューし、オリジナルアルバム7枚、シングル15枚を発表。そのすべての作詞を担当する。2005年のバンド解散後は、作詞家として、Superfly『愛をこめて花束を』、Little Glee Monster『世界はあなたに笑いかけている』、King&Prince『ツキヨミ』他、SMAP、関ジャニ∞、Hey!Say!JUMP、DISH//、矢沢永吉、石川さゆり、TOMMORROW X TOGETHER、EXO、NCT127、JUJU、中島美嘉、上白石萌音、まふまふなど、音楽プロデューサーとして、チャットモンチー、9mm Parabellum bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKY、BURNOUT SYNDROMESなど、ジャンルを問わず数多くのアーティストを手掛ける。現在までに700曲以上の楽曲制作に携わり、数々の映画、ドラマ、アニメの主題歌も制作している。2017年には映画『SING/シング』、2022年には『SING2』の日本語歌詞監修を行い、国内外から高い評価を得る。音楽活動のかたわら、映画・音楽雑誌等での執筆活動も行っている。 著書の短編小説集『うれしい悲鳴をあげてくれ』(筑摩書房)は20万部を刊行、ほかに「次の突き当りをまっすぐ」(筑摩書房)がある。本連載『いしわたり淳治のWORD HUNT』に掲載されたコラムをまとめた書籍『言葉にできない想いは本当にあるのか』(筑摩書房)を発売中。2021年からは新ユニットである「THE BLACKBAND」を結成し、そのメンバーとしても活動中。
朝日新聞社