今年の「音の匠」は鹿島建設「OPSODIS」立体音響プロジェクトチーム。日本オーディオ協会が「音の日」を開催
日本オーディオ協会が主催する「音の日」イベントが開催された。同イベントでは、音を通じて文化創造や社会貢献をおこなった方々を「音の匠」として顕彰。また、「日本プロ音楽録音賞」の表彰式、学生の制作する音楽録音作品コンテスト「ReC♪ST」(レックスタ)の表彰式が執り行われた。 鹿島建設の技術を応用した立体音響スピーカー「OPSODIS 1」 日本オーディオ協会は、1877年12月6日にトーマス・エジソンが世界初の円筒式蓄音器を完成させ、音を記録・再生に成功したことから、12月6日を“オーディオの誕生日”として「音の日」と定めており、オーディオ文化の普及に関わるさまざまな活動を行なっている。 「日本プロ音楽録音賞」は今年で30回目、「ReC♪ST」の開催は今年で10年目と記念すべき年となる。日本オーディオ協会会長の小川理子氏は、「“音の日”が冬の風物詩として定着してきた」と語り、録音・再生に関心を持つ若い世代への啓蒙活動といった音の日のこれまでのあゆみを振り返った。 今年の音の匠には、鹿島建設の「OPSODIS」立体音響プロジェクトチームが選出された。同社の「OPSODIS 1」は、小型サウンドバーのような形状で、1台だけで360度の立体音響を再現するスピーカー。実際に記者も体験したことがあるが、まさに「脳がバグる」ような立体音響体験には大変驚かされた。クラウドファンディングで4億円を超える支援を集めたことも話題となり、建設業界で培ってきた技術をベースに、民生用オーディオ機器の開発にも着手したことが大きく評価された。 OPSODISの開発を率いる村松繁紀氏の特別講演も行われた。鹿島建設は1840年に創業された老舗の建設会社で、サントリーホールや大賀ホールなど「音の良い」コンサートホールなどの建設にも携わってきた。音響の基礎研究にも力を入れており、OPSODISはサウサンプトン大学との長年共同研究として行われてきたもの。 「OPSODIS 1」では、トゥイーター、ミッドレンジ、ウーファーの3基×2のユニットの位相をコントロールすることで、1台のスピーカーで立体音響が体験できるシステム。壁の反射音等を利用しているわけではない点が大きな特徴だ。村松氏は、「コンテンツ制作・販売事業者、配信事業者、音響関連メーカーがOne Teamとなって立体音響が広く親しまれる世界を構築したいと願っています」と展望を語った。 日本プロ音楽録音賞は今年で30回目を迎える歴史あるアワード。音楽制作に携わるエンジニアの優れた業績を称え、エンジニアの技術の向上と次世代エンジニアの発掘を目的として開催されている。副審査委員長の高田英男氏は、第一回目の審査委員長であった菅野沖彦氏の「録音は音楽創造である」という講評を引き、「自分が担当する録音についてどれだけ事前に向き合ったか、ということで、エンジニアの“個性”が生まれてくるのではないか」と激励を送る。 4名の特別功労者も発表された。現在の「プロ音楽録音賞」を作ったとも言える元ソニーで工学博士の中島平太郎氏、アコースティック録音を中心に審査して現在の審査の基盤を作った菅野沖彦氏、新しいサウンドを生み出し今のイマーシブ部門にもつながる土台を作った音楽家の冨田 勲氏、放送部門の審査を長年担当してきたNHKの浅見啓明氏らが選ばれた。 また、この30年間で最も多く受賞したエンジニアを讃える「ベストエンジニア賞」には、日本コロムビアの塩澤利安氏が選ばれた。塩澤氏は、クラシックのホール録音を中心に、オーディオのリファレンスソフトとしてもしばしば活用される優秀な作品を数多く世に送り出している。今年も「Best Master Sound部門 クラシック、ジャズ、フュージョン」において「マーラー:交響曲第5番」が最優秀作品に選定された。 また、「Best Master Sound部門 ポップス、歌謡曲」の最優秀賞には Travis Japanの「Sweetest Tune」(ユニバーサルミュージック)、優秀賞にはI Don't Like Mondays.の「Sunset Girl」が選出。審査を担当した日本音楽スタジオ協会常任理事の三浦瑞生氏は、「Travis Japanは映像が浮かんでくるような楽曲で、打ち込みのキックと低域の“ロー感”によってしっかりグルーヴが出されている点が評価された」と講評した。 「Immersive部門」のプログラミング・サウンド最優秀賞には「天球の音楽 ミュージック・オブ・ザ・スフィア ― イマーシブ・クラシック」(ソニーミュージック)、アコースティック・サウンド最優秀賞にはスキマスイッチの「ボクノート ~for 20th Anniversary with Orchestra~」を選出。講評の高田英男氏は「天球の音楽」における鈴木浩一氏の手腕について、「実音と音響空間を切り出して空間で音楽を表現する手法が素晴らしい」と絶賛した。 「ReC♪ST」には、名古屋芸術大学や東京芸術大学、また専門学校生らの63の応募から、最優秀賞など8名を表彰した。最優秀賞は尚美学園大学の川上茉莉さんの作品で「夢で待ち合わせ」。軽快なロックチューンが心地よく、審査員も「満点をあげたい」と激賞。 優秀企画制作賞の吾郷友聖さん(HAL東京)の「Echoes on the Circle Line」は、フィールドレコーディングやピアノ、大太鼓などさまざまな楽器が入り混じる斬新な楽曲で、サラウンドも活用した空間再現力も楽しめた。
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈