名ばかり東証グロース市場 1380億円上場タイミーが逃れた失速のわな
8月上旬に暴落した日本株が回復基調にある中、新興市場である東証グロース市場の低迷が続いている。8月23日のグロース市場指数の終値は820.21と2023年末比で8%安。プライム市場指数(同13%高)やスタンダード市場指数(同6%高)と比べて一人負けの様相を呈している。 【関連画像】時価総額を大きく伸ばした企業は限られる。グロース(マザーズ)上場後の時価総額の推移 株価が上昇しない理由の一つに、成長力が乏しく時価総額が低空飛行を続ける企業が多いため、機関投資家が投資しにくいという点がある。なぜグロースを名乗りながら低成長のままなのか。その原因と処方箋を探った。 「上場後の成長をどう促すかが課題だ」。東京証券取引所上場部の池田直隆統括課長は危機感を募らせる。建前上、グロース市場は高い成長可能性が期待できる新興企業向けのマーケットだ。現在は約600社が上場する。 ところが、その実態は成長とはほど遠い。新規上場時から23年末までの時価総額の成長率(中央値)は1.03倍にとどまり、全体の49%の企業が新規上場時の時価総額を下回っていた。時価総額の中央値は60億円と機関投資家の投資対象となる下限の100億~200億円を下回る。全体の31%は上場維持基準の40億円をも下回っていた。 なぜ時価総額が伸びないのか。その理由は大きく分けて3つある。 1つ目は長期目線で投資する機関投資家の少なさだ。株式分布状況を見ると、プライム市場は外国人投資家と金融機関が共に全体の3割を超え、個人投資家が2割に満たないのに対し、グロースは6割弱が個人投資家だ。 米運用大手ティー・ロウ・プライスのダニエル・ハーレイ日本株ポートフォリオ・スペシャリストは「グローバル投資家の視点では市場の流動性の低い点が課題だ。また内需銘柄が中心であり人口減の日本で持続的な成長見通しがあるのか」と指摘する。 ●上場後の公募増資はわずか14% 2つ目は上場後の成長に向けた動きが乏しいことだ。例えば、旧マザーズを含めて03年以降に上場した企業のうち、上場後に公募増資を実施した企業はわずか14%にとどまった。グロース市場に多いIT(情報技術)企業は大型の設備投資が不要とはいえ、あまりに少ない。 あるスタートアップの幹部は「株価が低くて資金調達できないのが実態ではないか」と見る。これでは「低成長→株価低迷→資金調達できず→低成長」という出口のない無限ループ状態だ。 本来、上場の目的は資金を市場から集めて事業を拡大することだ。上場時は成長するはずだったが、成長投資ができずに低空飛行を余儀なくされている企業は少なくない。上場後の失速には、上場によって一財産を築いた経営者が成長への意欲を失う「上場ゴール問題」も影を落とす。 3つ目は、そもそも上場時の時価総額が低い点だ。近年は国内で毎年100社前後が新規株式公開(IPO)し、その7割がグロース市場に上場する。実は海外と比べて小規模で上場するケースが多く、23年にグロース市場のIPO時の平均時価総額は154億円と米国(3194億円)を大きく下回った。18~22年の中央値は72億円だった。 ベンチャーキャピタル(VC)、デライト・ベンチャーズ(東京・渋谷)の渡辺大マネージングパートナーは「大きなイノベーションは時間をかけないと生まれない。未上場時のメリットは大きいのに、日本の企業は上場が早すぎる」と指摘する。