「目の前が真っ暗に」 F4戦闘機に搭乗のCNN記者、6Gの重力を体験
再び身体検査
韓国の高速鉄道KTXでソウルからテグまで90分。しかし念願のF4搭乗は簡単ではなかった。 私は身体能力を証明する必要があった。低気圧に耐え、機体からの緊急脱出に対応でき、シミュレーターで目まいを起こさず、遠心機に入って体が6G(重力の6倍)に耐えられなければならない。 検査を受けた人の半分近くは6Gで気絶すると警告された。 検査はF4飛行の数週間前、ソウル南郊にある韓国空軍の医療施設で行われた。 フライトスーツとブーツに身を包み、私は搭乗候補の記者仲間と一緒に6Gシミュレーターに向かった。 私たちは呼吸法と、脳から血液が失われないよう体を緊張させる方法を手早く教わった。 検査前は知らされていなかったが、飛行担当医は私の体が適格だとは思っていなかった。多少ふくよかで、姿勢が悪く、それに65歳だからと同僚に耳打ちしていた。 だが私はライト兄弟の故郷、オハイオ州の出身だ。自分は合格できる自信があった。 6Gに耐えるチャンスは2度あった。気をしっかり持って、20秒間、気絶はしない。 私はシミュレーターに乗り込んで、親指を立てて見せた。そして……。 6Gに達すると、目の前が真っ暗になった。黒い背景にピンクの点だけが見えた。とっさに息を吸い込み、喉(のど)から絞り出すような声を上げた。後に動画で見たその時の私は、まるで悪魔払いをしているようだった。 それでも気絶はしなかった。それで十分だった。
いよいよF4に
私のファントムフライトは、韓国空軍が同機の引退を記念して計画した2回の飛行の2回目だった。F4は6月7日で役割を終えた。 各区間を編隊を組んで飛行する4機のF4のうち、3機の後席に記者が搭乗。このイベントを記録するカメラマンを乗せたF15が一緒に飛行した。 我々を乗せた軍のバスは、よく晴れた木曜の午後、テグ空軍基地に到着した。ちょうど午前のフライトがスウォンからデグに到着し、滑走路で轟(ごう)音を立てていた。私はゾクゾクして、笑みがこぼれた。 これは現実だ。ついにその時が来た。 午前のフライトに搭乗してF4から降りてきた米国人記者にあいさつした。私がこの日の午後に搭乗する機体だった。 「どうだった?」 自分には良かった、と彼女は言った。けれど残りの2機に搭乗した韓国人記者はそうでもなかったらしい。2人とも吐き気に襲われ、1人は2度嘔吐(おうと)した。 昼食を済ませ、パイロットから説明を受けた後、午後のフライトのために装備を整えて機体へ向かう時が来た。 駐機場へ戻ると、あとはあっという間だった。パイロットとハイタッチしたことは覚えている。「スピードが必要なんだ、スピードが」(トップガンの名セリフ)――。それからはしごを上がってコックピットに入り、シートベルトを締める。パイロットがゼネラル・エレクトリック製のJ79ターボエンジンを始動させた。 後席に座った私には仕事があった。レーダーを作動させる。これは後席からしかできない。そう、私はグースだ。 私たちはキャノピーを閉じ、滑走路へ移動し、轟音と共に韓国の青い空へと飛び立った。