久留里線の利用者が激減した3つの理由! 輸送密度“9割減”も、地元からは「廃止阻止」の声 廃止問題に対する議論は十分だったのか
高速バス代替困難、課題は速達性」
JR発足直後の1987年4月号の『交通公社の時刻表』を見ると、久留里~上総亀山間では上下線合わせて28本の列車が運行されていたが、現時点では17本に減少している。輸送密度が9割減少した一方で、列車本数の減少率は「4割」にとどまっており、 「JRの努力」 もうかがえる。2023年3月8日、JR東日本千葉支社は君津市および千葉県に対して、久留里~上総亀山間の地域交通体系を協議するための「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」の設置を申し入れた。 これを受けて、千葉県が事務局となり、同年5月11日に第1回会議が開催され、その後5回の審議を経て、2024年10月28日に「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議検討結果報告書~沿線地域の利便性の高い公共交通への提言~」が公表された。報告書では、 「上総地区では、『平日最大15人程度、休日最大20数人程度のまとまった移動需要と、それ以外の散発的な移動需要』があり、当該地区で提供されている交通サービス(鉄道・高速バス・デマンド交通など)は、これらの移動需要に適していないことがわかった。当該地区での移動需要を考慮すると、自動車中心の交通体系への移行により、より利便性の高い地域公共交通が実現すると考えられる」 との議論結果を記した。君津市企画調整課も 「久留里線と並行する高速バスへの代替は難しいと考えている。ドアが先頭に1か所しかなく乗降に時間がかかるのと、高速バスの特性である速達性が失われる懸念もある」 と説明する。
廃止反対の声と自治体の対応
現状の鉄道を維持することができないとしても、バス転換には課題が残る。まず、バスの乗務員不足が深刻な問題だ。バス事業者は、利用者の多い路線に人員を優先的に配置しているため、代替バスを運行するための十分な乗務員を確保できるかは疑問である。 また、沿線の道路環境にも不安がある。筆者(大塚良治、経営学者)は上総亀山駅近くの亀山・藤林大橋バス停から高速バス「カピーナ号」千葉駅行きを利用したが、途中で大型車両のすれ違いが難しいトンネルがあり、バスや対向車両が手前で待機する場面も見受けられた。定期的なバス運行を行うには十分な環境が整っていないと感じた。さらに、山間部で急カーブが多く、冬季の路面凍結や悪天候、地震時の斜面崩落などの災害リスクも懸念材料である。 地元には廃止反対の声も根強い。「久留里線と地域を守る会」の三浦久吉代表は「千葉県、君津市、JR東日本、有識者、および住民代表が委員として議論する検討会議は、わずか5回の会議を開いただけで、JRは住民の声を無視して久留里~上総亀山間の廃止を強行した。JR東日本の姿勢に憤っている」としたうえで、 「再構築協議会が設置された芸備線沿線の関係自治体は『廃止は受け入れらない』という強い意向で会合に臨んでいる。自治体の力はJR東日本も無視できないはず。われわれは廃線を阻止するため、千葉県や君津市に強力に働きかけていく」 と強調する。君津市企画調整課も 「住民に対して『久留里・松丘・亀山地区住民の移動実態に関するアンケートの結果』やJR東日本からの申し入れがあったことなどを共有したが、守る会の方と具体的な突っ込んだ話し合いはしていない」 と認める。守る会の三浦代表は、 「自治体から鉄道を残すことをJRに要望すると、資金負担の話になることは避けらない。それを恐れているのではないか」 と行政に対する疑念を隠さない。また、協議会設置から2年も経っていないタイミングでJR東日本が廃線を発表したことが適切だったのかについても疑問が残る。国は鉄道の存廃について話し合う再構築協議会を設置し、協議開始後3年以内に結論を出すことを目安としているが、住民から廃止反対の声が上がっている以上、筆者はJRには少なくとも3年をかけて十分に説明する責任があったと考える。 2023年度の廃止区間の営業収支は2.35億円の赤字であるが、JR東日本の営業利益は約3452億円で、この赤字額は営業利益の 「約0.07%」 に過ぎない。結論が1年延びたとしても、同社の業績への影響はほとんどないだろう。