<陸上>明日国体で多田が挑戦。次なる100m9秒台はいつ誰が出すのか?
えひめ国体で大記録がお預けになると、次なる「9秒台」は来シーズンに持ち越しとなる可能性が高い。2018年はオリンピック、世界選手権のない“谷間の年”ということもあり、どの大会にピークを合わせるのか、有力選手の動向は今季以上に異なってくる。ただ近年の流れを考えると、春先の海外レース(米国や豪州)、4月29日の織田記念(広島)、5月20日のセイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪、6月3日の布施スプリント(鳥取)、6月22~24日の日本選手権(山口)あたりに9秒台の可能性があると見ていい。 山縣、サニブラウン、多田、ケンブリッジに期待がかかるなか、9秒台に最も近いのは10秒0台で9回走っている山縣だ。今春に右足首を痛めたこともあり、6月の日本選手権は6位に終わったが、その後はフォームを見直し、後半に脚が流れるクセを修正。課題だった終盤の減速が少なくなり、秋の好タイムにつなげた。 直線で争われる100mは風の影響がタイムに大きく影響する。単純計算はできないが、専門家のデータに当てはめると、山縣の10秒00は桐生と同じ追い風1.8mなら9秒9を切るタイムに換算されるほど、記録の価値は高い。 山縣の結果を受けて、桐生は自身のツイッターで「こっからバンバン抜かれたり抜いたりが始まるんやろな」と投稿。近年、日本のスプリント界をともに引っ張ってきたライバルの実力を認めている。
そして山縣以上に大きな可能性を秘めた選手がいる。 18歳のサニブラウン・ハキームだ。 男子100mの前日本記録保持者で日本陸連の伊東浩司強化委員長が「ワールドクラスのスプリンター」と評価するほどで、今季の戦績とポテンシャルを考慮すれば、すでに世界大会のファイナルを経験しているサニブラウンの方が山縣よりも“実力”は上と考えてもいいだろう。 6月の日本選手権は予選と準決勝で10秒06を叩き出して、決勝は雨のなかで日本歴代5位の10秒05(+0.6)で完勝。200mも圧勝して、14年ぶりとなるスプリント2冠を達成した。そして、8月のロンドン世界選手権では100mで準決勝に、200mでは決勝に進出している。 100m準決勝はスタート直後に体勢を崩したが、同予選2組は自己タイの10秒05(-0.6)で堂々のトップ通過。200mは18歳157日で決勝の舞台に立ち、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が持っていた同種目の「史上最年少ファイナリスト」を塗り替えている。右ハムストリングスの痛みで後半は失速したものの、前半でのトップ争いを演じる快走はロンドンの観衆を驚かせた。 今年はオランダを拠点にトレーニングをしていたが、9月から米国のフロリダ大学に進学。大学では新たなコーチのもとで競技を続けることになる。ロンドン世界選手権のときには、「陸上に関しては、1~2か月くらいは休養とリハビリかな。気が向いたら練習を始めようかなという感じですね。次の目標ですか? まずは休んで、脚をしっかり治してから考えたいと思います」と話していた。 大学対抗のレースがあるだけでなく、NCAAの規約もあるため、日本国内のレースにどれだけ参戦できるかは未知数だという。ただ、9秒台の可能性を聞かれる度に、「出るときには出るかなと思います」とサニブラウンは答えてきた。将来的な目標として「世界記録」を掲げる男に、9秒台は単なる通過点でしかない。 桐生と山縣のふたりが抜きつ抜かれつの名勝負を演じて、徐々にタイムを伸ばしていくのか。それともサニブラウンが一気に“次世代の領域”まで突っ走るのか。あるいは第4の男が主役の座を奪うのか。男子100mの熱きドラマはまだまだ続きそうだ。 (文責・酒井政人/スポーツライター)