高倉健さん、菅原文太さん没後10年 八名信夫と谷隼人が語る名優たちのエピソード
谷「東映では、健さんは『旦那』、 鶴田さんは『若』、若山さんは『先生』と呼ばれていました」
八名「それで若山さんがかーっとなって俺に殴りかかってきて。すると鶴田のおやじさんが若山さんに『おまえは何さらしとるんじゃい。八名は俺が東京から連れてきたんじゃ。それに手を出すとはどういうこっちゃ』と。そのうちに『こんな映画やってられんわ』となった。鶴田のおやじさんの下に悪役が20人ぐらいいて、若山さんの下にも15人ぐらいいて、これが対立して大立ち回りの前みたいになった」
谷「これは映画じゃなくて実話です」
八名「映画よりすごいわ。もう映画どころじゃない。鶴田のおやじさんが『こんなもん撮影にならん。撮影やめだ。ライト消せ』って言って撮影は中止になった」
谷「最終的にはどうなったんでしょう」
八名「後で聞いたところによると、若山さんが鶴田のおやじさんのところへ行って頭を下げたと。それで俺がおやじさんの部屋に行くと、『若山が詫びを入れてきた。八名、お前も辛抱せえよ』と」
谷「これはせりふじゃないからね。台本もないからね。でも、若山さんもいい俳優でしたよね」
八名「うん。いい俳優だった」
■もとは真面目な梅宮辰夫と菅原文太
谷「僕は健さんの『網走番外地』シリーズに8本も出ているけれど、梅宮辰夫さんの『不良番長』シリーズにも9本出ている。八名さんから見た梅宮さんは?」
八名「真面目な人なんだけど、会社がああいう軟派役に作り上げた」
谷「もとは病院の息子さんなんですよね。それがああいうふうになって」
八名「戻れなくなっちゃった(笑)」
谷「『不良番長』をやっているうちに、戻れなくなった」
八名「戻ったら面倒くさいっていうの。だから芝居もわざと色っぽいほうに」
谷「そうですね。東映の軟派路線が梅宮さん。菅原文太さんも没後10年になりますね。八名さんは『仁義なき戦い』などで何度も共演されていますが」
八名「文太さんとは、あんまり一緒に酒を飲みに行ったことがないなあ。文太さんは運転免許を持っていなくて『トラック野郎』も運転するところはすべて吹き替え。だから車に乗せて何回か自宅まで送っていったことがある。やっぱり役を作るのがうまいんだよ。本当はおとなしい人。もともとはモデルで、新東宝では『ハンサムタワー』なんて言われていて」