高倉健さん、菅原文太さん没後10年 八名信夫と谷隼人が語る名優たちのエピソード
■鶴田浩二に教わった悪役の心得
谷「この間、(富司)純子さんが『鶴田浩二さんは女性を受け止める。高倉健さんは振りほどく芝居だ』と言っていたけど、八名さんはそんなふうに感じたことはありますか」
八名「うん、鶴田のおやじさんは女性を受け止めるんだな。それに、修羅場に入る前も、入ってからもものすごく色っぽい」
谷「健さんは立ち回りも、硬派な感じがして、男気って感じがする。もう全身から『俺は高倉健だ』というのがあふれ出ている」
八名「それは絶対に外さない。健さんは絶対に崩さない。『俺は高倉健だ』っていうものが全面に出ている。逆に鶴田のおやじさんには、どこでどうなるか分からん面白さがある」
谷「八名さんの『悪役は口に苦し』という本の中に、『悪役は殺されに行くんじゃなくて、殺しに行くような目で演じなきゃ駄目だ』ってありますよね」
八名「鶴田のおやじさんが教えてくれた。『悪役はこびたらいかん。かかってくるときは俺を本気で殺しに来い、斬られるような顔をして出てくるな。今の若手の連中は最初から殺されに来る。迫力も何もないし、殺しに来るような目ができない。竹光でも真剣のような重さを画面に出せ。そうしたら俺の方が怖くなる。そうしないと画面が死んでしまう』。そういうことを教えてくれた」
谷「鶴田さんと若山富三郎さんと八名さんの間ではちょっと苦い思い出があるとか」
八名「あるとき、鶴田のおやじさんが『八名、おまえ俺の映画に出てみるか』と言ってくれた。東京から京都に行くと出演料も上がるし、待遇もよくなるからうれしかったな。ところが、それが大きな事件になった。その映画では、俺が親分の代貸し役で、若山さんが俺の下に付いている役だった。俺がドスを持って鶴田のおやじさんに斬りつけるシーンがあって、若山さんが後ろから俺を羽交い締めにして止める。その時、ドスの先が若山さんの眼鏡に当たった。眼鏡が飛んだだけかと思ったら、監督が『先生、血が出てますよ』って。ほんの少しぽつっと出ていただけなのに余計なことを言って…」