自分自身を知り、他者を理解する
求めているだけではほしいものは手に入らない
私はこのバスケットボールチームで練習を始めたとき、 「早くこのチームに馴染んで、メンバーといい関係性をつくろう。認めてもらおう」 と考えていました。そこで、練習の際には、相手のプレーを活かそうと、相手のプレーに合わせる、自分のプレーは控える、という行動をとりました。 しかし、しばらくすると、コーチの役割を担っているメンバーの一人から呼び止められました。 「稲川さんがどんなプレースタイルなのかがわかりません。自分の得意なプレーをぜひ示してほしい。なぜならば、チームメンバーは稲川さんは何が得意で、どんなプレーが好きで、どのように活かせば全体のチームパフォーマンスにプラスに影響するのかがわからない。早くそのことを知りたいのです。チームに合わせるプレーをするのではなく、自分のプレーを見せてほしい」 この言葉には、はっとさせられました。振り返れば、私は自分の安心だけを求めていたのかもしれません。 このチームにおける自分の役割や責任はいったい何か、自分はどんな能力をもっていて、チームに活かすために何ができるかについて意識を向けた瞬間でした。 チームメンバーにはそれぞれ自分の役割があります。違う役割や責任を負う人々が集まっているから、チームなのです。だからこそ、誰かのため、みんなのためなど、周りのことばかり考えて行動するのではなく、自分のできることを探して行動することが大切だ。コーチからの一言は、そのことを思い出させてくれました。
チームワークに必要な能力
翻って、チームをまとめるリーダーの立場で考えると、どんな人をチームの仲間に入れたいと思うものでしょうか。 チームワークとは、他者との関わりによって創り出されるものです。関わりがなければ、チームである必要はありません。それを考えると、メンバーには「他者と関わる能力」が求められます。他者と関わる能力とは、他者を尊重する意識や、他者の話に耳を傾ける能力などが含まれます。 『人望が集まる人の考え方』という書籍に、次のような言葉がありました。 「良い人間関係とは、自分が求めているものを手に入れるのと引き換えに、相手が求めているものを与えることだ」(※) 私がチームに参加するときに求めるものがあるのと同様に、それぞれのメンバーもチームに対して求めているものがあるでしょう。また、私がチームに受け入れてもらいたいと思うように、チームメンバーも自分のことを受け入れてもらおうとしているのではないでしょうか。 そう考えると、チームがチームとしてまとまるためには、リーダーもメンバーも、お互いに求めているものや自分が何をしたいか共有しながら関係を築いていく必要があるといえるでしょう。