哲学は役に立つのか。NTT澤田会長に聞く、「できない」から始める哲学論
2023年の夏、NTTは京都大学大学院文学研究科の出口康夫教授と一般社団法人京都哲学研究所を設立。趣旨に賛同した日立製作所、博報堂、読売新聞といった企業も同研究所の研究活動に参画している。 【全画像をみる】哲学は役に立つのか。NTT澤田会長に聞く、「できない」から始める哲学論 なぜ総合ICT事業を標榜する通信企業のNTTが先頭に立って京都哲学研究所を始めたのか。 二人いる共同代表理事のうちの一人、NTT会長の澤田純にインタビューした。 もう一人の共同代表理事の出口康夫は、設立の趣旨について「哲学はいま再び、社会に向き合い、社会にエンゲージしなければなりません」と言っている。 ※インタビューは4回にわたって掲載する。第2回となる今回は、澤田会長の考える哲学について。
私は哲学を分かっているわけではありません
澤田:哲学は重要だと認識しています。哲学、例えば形而上学は突き詰めて考えられる方々の仕事だと思います。私は付いていけません。付いていきたいけれど付いていけないのです。 ──哲学は難しいということでしょうか。 澤田:はい、簡単に理解できるわけではないと思っています。しかし、みなさん、理解してみたいのではないでしょうか。 前回、西田幾多郎の話に触れましたが、私はすべてを分かっているわけではありません。西田幾多郎先生の『善の研究』を理解しようと3回トライしましたが、3回とも最後まで読めていません。意味不明だな、分からないなと思ってしまう。ただ、今、私なりに哲学をどう捉えているかはあります。 ──それを教えてください。重要です。 澤田:具象と抽象なんです。人間、生きている限りは、現実に具体的に動いているということがベースになるわけです。ですが、言葉というのは、これを抽象化できる。 「私はマグロが好きだ」と言う人と、「私は鯛が好きだ」と言う人はそのままで行くと分断する。意見は相反してしまう。しかし、「いや、お二人は魚が好きなんでしょう?」と言うと抽象化できる。こういう抽象化概念が実は哲学だと思っています。 ── なるほど。抽象化すれば相反するものが統一できる。一見、矛盾しているように見える2つの要素も、より高いレベルで統一できる。澤田さんを見ていると、技術、哲学、倫理、人間をすごく敬愛している人だなと思ってしまいます。だから哲学研究所を考えたのでは? 澤田:それは敬愛しています。特に人間への関心です。やはり哲学は人間を追求しようとしているものですから。でも私は生物学も好きですし、土木工学ももちろん好きです。 ──澤田さんについては忘れられないシーンがあります。わたし(野地)が「IOWNの実用化時期はいつですか?」と聞きました。すると、澤田さんは同席していた副社長に丁寧な物腰で、「どうでしょう。実用化したとはっきり言えるのは、いつごろになりますか?」と尋ねました。 澤田:はい、よく覚えています。 ──普通の経営者であれば副社長に、「君、あれはいつ頃できるのかね?」と問うと思います。もしくは「この時期までにやれ」と指示するのでは。しかし、澤田さんはそうしませんでした。現場と部下をリスペクトしていたから、現場の意見を大切にしたのではないでしょうか。 澤田:リスペクトしています。自分にはできないということが前提にあるのです。