完全な非核化へ具体策なし「世紀の会談」は失敗だったのか?
史上初めてアメリカと北朝鮮の指導者が対面した「世紀の会談」。6月12日、両国の旗の前でがっちり握手した両首脳は、最初こそ固さが見られたものの、次第に打ち解けた雰囲気を演出。二人そろって主に4項目からなる共同声明に署名しました。「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)や、いわゆる「体制保証」などが焦点となった会談をどう評価するか。元外交官で日朝国交正常化交渉の日本政府代表も務めた美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【写真】1度ならず2度までも……北朝鮮の「核放棄」裏切りの歴史
●アジアの冷戦
アメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談は、最終段階まで世界中の人をハラハラさせましたが、予定通り6月12日、シンガポールで開催されました。 今回の会談の最大の注目点は、北朝鮮の「完全な非核化」でした。両首脳の共同声明はその具体的な内容に踏み込みませんでしたが、会談は失敗であったとみるべきではありません。米朝両国の首脳が初めて会談し、今後、米朝間で新しい関係を築いていくことと、朝鮮半島で永続的、かつ安定した平和の体制を構築していくために米朝両国が協力していくことなど重要なことが合意されたからです。 この合意により、1950年以来の南北朝鮮、及びそれぞれの背後にある自由主義諸国と共産主義勢力の激しい対立は解消され、「冷戦」は終わることになります。そして永続的な平和を実現する道が開かれました。今後、両国は非核化という最終目標に向かってこの道を歩んでいくことになります。 さらに、トランプ・金会談へ至る過程で朝鮮半島をめぐる緊張が緩和されたことも見逃せません。昨年までの異常な危険状態はすでに去っていますが、今後、米朝両国がこの道を進むにつれ、さらなる緊張緩和につながることが期待されます。
●非核化の意思
最大の懸案である「完全な非核化」の具体的詰めは今後の協議に委ねられましたが、これはやむを得ないことでした。金委員長の非核化に関する意思が動揺したとは思いません。非核化は複雑なプロセスであり、多くの問題を一つひとつ解決しなければならず、それには時間がかかるからです。主要な問題としては、核兵器廃棄の期限を明確にすることと効果的な検証の仕組みを作ることが挙げられます。 核兵器廃棄の期限を明確にするのは、廃棄にはどうしても一定の時間が必要だからです。しかし、期限は遠くなればなるほど合意内容がぼやけてくるので、できるだけ近い時点に期限を設定しなければなりません。具体的にいつを期限とするかは今後の交渉次第です。期限を設定しない合意などは論外でしょう。 期限を設定しないと、1994年の「米朝枠組み合意」や2005年の「6者協議」での共同声明のように失敗に終わる危険があります。 また、北朝鮮は段階的な廃棄を主張するかもしれませんが、設定した期限を守ることが重要であり、その範囲内であればどのように処理するかは北朝鮮の問題かもしれません。 もう一つの効果的な検証システムを構築するのはきわめて技術的、専門的なことなので、ある意味もっと難しいですが、重要なのは、「いつでも、どこでも」査察ができるようにすることです。「軍事施設」を理由に査察を拒否することや、隠ぺいの危険があるからです。 さらに、北朝鮮の核不拡散条約(NPT)への復帰も必要です。これが実現すると、北朝鮮は査察を受けることが法的な義務となります。