完全な非核化へ具体策なし「世紀の会談」は失敗だったのか?
●体制保証
一方、米国が北朝鮮に与えるのは「国家承認」です。朝鮮戦争の休戦協定を「平和条約」に転換することとか、「不可侵協定」、「攻撃しないとの保証」などで表現されることもあります。 一部には、「体制保証」という表現を使う傾向がみられますが、「保証」は与える側が責任を持つことであり、「北朝鮮の体制」については、金一家体制であれ、共産主義体制であれ、あるいはその他の体制であれ、米国が「保証」することはあり得ません。 米国はこの問題について「体制保証」に相当する言葉を使っていません。1994年の枠組み合意や2005年9月の6者協議共同声明が用いたのは、「米国が北朝鮮を攻撃しない」ということでした。今回の合意ではsecurity guaranteeであり、これは「安全の保証」と訳すべきでしょう。なお、トランプ大統領は「安全protection」と表現したこともあります。 今回の首脳会談では、朝鮮戦争の終結宣言を行うとの観測が流れましたが、これはありませんでした。これだけを特に取り出すべきではなく、平和条約締結の中で処理されるべきだと考えられたのだと思われます。
●中国の影
中国については、金委員長が米朝会談の前に2回訪中し、習近平主席と会談しました。中国の影響力の大きさをあらためて示す一事でした。 中国は、そもそも朝鮮戦争の時から朝鮮半島の安全に深く関わっており、米国との交渉経験は豊富です。初めて米国の大統領と会談する金委員長にさまざまなアドバイスを与えたものと推測されます。ただ、今回の会談では第三者としての立場であり、金委員長一行のシンガポールへの渡航のため中国の航空機を提供しましたが、基本的には側面から協力する姿勢でした。 平和条約が締結されることになれば、中国は南北朝鮮及び米国と並んで当事国となります。先の南北首脳会談の板門店宣言では、「南北米3者、または南北米中4者」と記されるなど、中国が不可欠ではないという意味にも解される言及がありましたが、中国は当事国であり、不可欠です。