骨太方針では労働市場改革が注目点の一つ:労働生産性向上を通じた持続的な実質賃金の上昇が重要
「三位一体の労働市場改革」に期待
新しい資本主義実行計画の改定案によると、労働生産性を向上させるために、省力化に役立つAIやロボットなど自動化技術の導入を促進し、特に人手不足が深刻な運輸業、宿泊・飲食業を中心に利用を働きかける。 さらに労働生産性の向上を持続的な実質賃金の上昇と成長力強化につなげるためには、労働市場改革が重要だ。この労働市場改革は、骨太方針にも盛り込まれる。 若い労働者やデジタル化で仕事を失う恐れがあるホワイトカラーには、専門知識の習得やリスキリング(学び直し)を政府が支援する。産学が連携して最先端知識を身につける新プログラムを立ち上げ、25年度中に3千人の参加をめざすという。 また従来型の年功序列型の賃金体系である「職能給」から、企業内で職務を明確にして成果重視で処遇する「職務給」、つまり「ジョブ型」の拡大を促す。政府は、先行導入した約20社の取り組みを紹介する事例集をつくり、今夏にも公表するという。 そして、リスキリングで技能を高めた労働者が、それを生かすために他企業、他業種に転職することも政府は支援する。それによって、高成長産業に労働者が移動し、産業構造の高度化と成長率の向上が図られる。労働生産性上昇、実質賃金の上昇につながるリスキリング、ジョブ型の導入、労働市場の流動化は、岸田政権が従来掲げてきた「三位一体の労働市場改革」である。政府は、労働市場改革を進めるため国民会議を開催するという。 「三位一体の労働市場改革」が成果を十分に発揮できれば、労働生産性の向上、実質賃金の上昇が実現され、将来の生活見通しが改善するだろう。それは、少子化対策の一環にもなるのではないか。さらに成長力が強化されれば、財政環境の改善、社会保障制度の持続性、安定性にもプラスとなる。 「新しい資本主義」のいわば総仕上げとして、岸田政権にはこの「三位一体の労働市場改革」に全力で取り組んで欲しい。 (参考資料) 「政府の「骨太の方針」原案が判明 賃上げとリスキリングを後押し」、2024年6月10日、朝日新聞ニュース 「新資本主義 中小賃上げ 柱 政府 実行計画を再改定」、2024年6月8日、静岡新聞 「中小の賃上げ定着へ 政府、「新資本主事実行計画」改定案」、2024年6月11日、日刊工業新聞Newsウェーブ 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英