安達祐実の演技が光る!ドラマ「3000万」は目が離せないクライムサスペンス
悲観的な妻と楽観的な夫、それでも金は欲しい
心配性で悲観的な割に、腹を据えたらどんどん大胆になっていく祐子を安達が熱演。金を取り戻そうとする犯罪組織の下っ端チンピラの蒲池(加治将樹)と長田(萩原護)に襲われたときには、恐怖→焦燥感→怒り→決意→興奮→快感と、感情の乱高下を真剣かつコミカルに魅せてくれた。逆に、夫はどこか楽観的で、3000万を目にしてからは浮つきっぱなし。後先考えずに夢見がちなところが不安しか感じさせない夫を青木が飄々と演じる。 何が面白いかって、この夫婦の心理である。犯罪と関わりたくない一方で、金は欲しい。亡くなると思っていた犯人の女・ソラ(森田想)が意識を取り戻したところから、ますます夫婦はおかしくなっていく。どうにかしてネコババしたい気持ちは同じだが、妻は先回りしてうまく処理したい、夫は金を使うことしか頭にない。この温度差が激しすぎて、もどかしくもおかしい。 祐子は、女が金を奪い返しに来たり、息子を襲いに来るのではないかと不安で仕方がない。一方、夫はのんきにギターを購入したり、罪滅ぼしのために祐子にはフライパンを買ってきたりする。しかも高級で重くて手入れが大変な鉄製のフライパン。今、それじゃない感! この無神経さがわかって舌打ちする妻が全国に3万人はいるだろうな。ただし、一概に夫を責めることはできない。ソラを病院から連れ出した祐子が、蒲池に襲われたときに身を守る武器に。無用と思われたフライパンがうっかり役に立ったのである。孤軍奮闘の祐子に見えるが、夫が無意識にとる行動が想定外の幸運を呼び寄せる。その構図がうまいなあと思う。
警察と犯罪組織の追手がしのびよる
ソラを匿う代わりにお金を要求して、病院から連れ出した祐子だが、襲いかかってきた蒲池。ソラと共闘して、湖に転落させしまい、殺してしまった罪悪感も抱え込む祐子。ソラになかば脅迫されつつ、同情も抱いた祐子は仕方なく家に連れ帰ることに。すでに地獄なのだが、そんなときに夫は例の如く、のんきにギター弾いて曲を作っているという。追い込まれる祐子だが、もう後戻りはできない。ソラを海外に逃がして、金の一部をもらって、平穏な暮らしに戻りたい……。もちろん、そううまくいくはずがない。 警察はソラの行方を追っている。奥島とともに強盗事件の捜査にあたる野崎刑事(愛希れいか)は、初めから祐子たちを疑わしく思っている。また、3000万の強盗事件は組織犯罪で、指示役の坂本(木原勝利)は上層部(栗原英雄)から締め付けられる。実行犯に金を持ち逃げされた責任を負わされ、執拗な追跡を始める。 警察からも犯罪組織からも既にマークされている祐子。しかも、この段階で3000万のうち200万を使っちゃっている。というのも、夫婦で開き直って、純一にグランドピアノを購入してしまう。うしろめたいだの、罪悪感だの、ではない。立派な犯罪者となったのだ(安達の表情から迷いが消える瞬間は鳥肌モノだよ!)。 金が人を狂わせる。人間のあさましさと甘さをコミカルに見せる一方で、犯罪に手を染める人間のたくましさと図々しさもシニカルに描く。「なんでこうなっちゃったのか」と振り返ると、第一話のシーンがぐっと効いてくる。ものすごく急いでいるときに、駐車場の線をちょっとはみ出して駐車したら、警備員に注意された祐子。また、会社の同僚・橋本(工藤遥)が不倫の罪悪感について吐き捨てたセリフはこうだ。「そういう正論ってアホらしいときありません? めっちゃ急いでるときに、車1台も通ってないのに、青信号になるまで歩道を渡るの、待ちます? 結局、バレなきゃいいんですよ」。 悪いことだとわかっていても、人として間違っていると思っても、バレなければいい。すべての犯罪の始まりがここに集約されている気もする。タガが外れた夫婦を待ち受けるのは、はたして災厄か、それとも幸運か。
『3000万』
NHK総合 毎週土曜 夜10時00~ BSP4K 午前9時25分~ ※再放送 NHK総合 翌週水曜 午前0時35分~ 脚本:弥重早希子、名嘉友美、山口智之、松井周、from WDRプロジェクト 音楽:渡邊琢磨 演出:保坂慶太 小林直毅 制作統括:渡辺哲也 プロデューサー:上田明子、中山英臣、大久保篤 出演:安達祐実、青木崇高、野添義弘、愛希れいか、森田想、加治将樹、持田将史、工藤遥、木原勝利、萩原護、山岸門人、味元耀大 ほか
吉田潮