さらなる「改悪」も…公取委の再調査で淘汰が始まる「クレカ業界」の生き残り作戦と勢力図
コード決済が少額決済市場のトップに立った原動力は、割安な手数料だ。最大手のPayPayの加盟店の基本手数料は1.98%。一方、Suicaの手数料は3~4%とされ、クレカの手数料よりは割安ではあるが、PayPayと比較すると明らかに割高だった。そこへ、今度は、電子マネーと同等の使いやすさを有するクレカのタッチ決済が、PayPay並みの水準にまで手数料を引き下げて、シェアを奪いにきたというわけだ。 なお、少額決済市場の攻防は、公共交通機関にまで及んでいる。地方だけでなく、首都圏や関西圏の乗降客の多い私鉄や地下鉄でも、自動改札機がタッチ決済やコード決済に対応するところが増えており、Suicaの牙城を切り崩そうとしている(防戦一方のSuicaは、『JRE BANK』などの金融事業に活路を見出そうとしているがジリ貧が続いている……)。 ◆やっと開示された手数料の詳細…公取委が問題視する「イシュア手数料」とは? 以上のことから、手数料引き下げの当面のゴールは、「2%前後」といえるだろう。現状の水準からは、わずか1%強の引き下げ幅だが、この影響は小さくはない。 冒頭で紹介した公取委の調査は、実は、数年前から何度も実施されている。その度に、VISAやマスターカードといった国際ブランドに対して、手数料の開示を促してきた。この手数料は「イシュア手数料」と呼ばれるもので、加盟店が契約しているカード会社(アクワイアラ)が、ユーザーが契約しているカード会社(イシュア)に支払う手数料である。 クレカが使われたとき、そのカードがブラックリストに該当していないか、利用限度額を超えていないか、といったことを確認するために、国際ブランドの認証システムを利用する。その際、アクワイアラはイシュアに手数料を支払うのである。 このイシュア手数料は、加盟店がカード会社に支払う手数料の大半を占める。公取委は、これが国内のクレカの手数料が割高となっている主因として問題視し、国際ブランドに開示を求めてきた。海外では公表しているにもかかわらず、長年、国内では公表してこなかったのだ。 その結果、VISA、マスターカード、中国銀聯は、それぞれの手数料率を’22年11月に開示した。ただし、それ以降、手数料の引き下げが進まなかったことから、今回の再調査の実施に至ったとみられる。 ◆サービス改悪、そして業界再編…クレカのユーザーには「デメリット」になる可能性大 イシュア手数料の引き下げは、加盟店には大きなメリットをもたらすが、クレカのユーザーにはデメリットになる可能性が高い。イシュア手数料は、ポイント還元などの会員サービスや販促費用の原資そのものだからだ。 この部分が減ると、ポイント還元の原資も減ることになる。したがって、このところ多発しているクレカのサービス内容の改悪傾向は、まだまだ続くことになるだろう。各社、ユーザー離れに直結するポイント還元率の改悪は避けるとみられるが、それ以外はすべて改悪の対象になっても不思議ではない。 カード事業単体のビジネスモデルは限界に近づき、カード会社間の吸収・合併といった業界再編につながるかもしれない。手数料収入に依存しない、総合的な〝経済圏〟でのサービスを提供する共通ポイントの寡占化が、一段と進むだろう。 取材・文:松岡賢治 マネーライター、ファイナンシャルプランナー/証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる! キャッシュレス決済で絶対得する本 』。
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