クライアントの行動変容をもたらすコーチング・コンピテンシーとは 【原文】Coaching competencies: What works?
コーチング研究の新たなフロンティアは「コーチングは有効か?」から「コーチングの何が有効か?」にシフトしつつある。 コーチが感情知性と社会的知性をコーチング・セッションで体現することが有効である。
はじめに
現在、確立したコーチング・コンピテンシーのモデルが国内外のコーチ認定資格の基盤となっている。動機づけ面接(motivational interviewing)、ポジティブ心理学、マインドフルネス、感情知性、自己決定論など、すでに学術的に検証されているコンピテンシーを統合したモデルもあるが、研究の余地はまだある。どのコンピテンシーについても、コーチングにおけるクライアントの変化を測定して検証されていないからである。 リーダーシップ、組織、健康とウェルビーイングといった領域でコーチングがポジティブな結果をもたらすことを実証する科学的文献は増えているが、どのようなコーチング・コンピテンシーが効果的なのか、また最も効果的なものはどれかについては、まだどの研究者も取り上げていない。 ボヤツィスらは、『Journal of Applied Behavioral Science』に掲載された2024年の論文 「Competencies of Coaches that Predict Client Behavior Change(クライアントの行動変容が予測できるコーチのコンピテンシー)」でこの問題に取り組み始めた。
コンピテンシーとは何か?
ボヤツィスのチームはまず、「コンピテンシー」の定義を明確にした。コンピテンシーとは、業務や職務要件といった仕事の特性(一般的に業務分析[job task analysis、JTA]はコーチ認定試験の基礎となっている)を意味しているのではなく、ポジティブな結果を出せるコーチ自身の実力や潜在能力のことである。ボヤツィスが以前に提示したパフォーマンスのコンティンジェンシー理論(1982年)では、次のように論じている。 「ある人がコーチングの仕事や責任にふさわしい特性(価値観、行動スタイル、気質、コンピテンシーなど)を発揮し、それが組織の文化的・制度的状況と合致したとき、効果的なコーチングが生まれる」 他の人を支援する専門職に関する先行研究によれば、クライアントの状態の変化にとって重要なのは、支援者やコーチの行動面のスキルやコンピテンシーであって、支援やコーチングの種類や継続時間ではない。さらに、コーチの行動がクライアントのロールモデルになることも示されている。著者らは次のように述べている。 「コーチのコンピテンシー(すなわちコーチの行動)は、質問や助言をしたり、経験や視点を共有したりすることで、クライアントの考え、気持ち、行動に直接影響を及ぼす。このプロセスは、コーチがクライアントの考えや感情の中の何かに気づき、それに何らかのかたちで反応し、クライアントの支援を行うことから始まる。クライアントにいつ、どのように寄り添うのか、なぜそうするのかを決めるのが、コーチのコンピテンシーである」 コーチの気分や言語的・非言語的な行動は、クライアントとのコーチング・セッションの流れをつくる。コンピテンシーによってコーチがとり得る行動の範囲が決まり、新しい考え方をこだわりなく受け入れる雰囲気をつくりだすか、逆に守りの姿勢で新しい考えを排除してしまう状況にするかは、コーチのコンピテンシー次第なのである。 前述したように、コーチが不安げであったり、別のことに没頭していたり、ストレスがあったりすれば、クライアントはそれを察し、おそらく同じように感じたり、行動したりするだろう。コーチがオープンマインドで好奇心があり、思慮深ければ、クライアントもそれを真似し、自分の感情や行動に取り入れるだろう。 ボヤツィスらは「コンピテンシー」の定義を明確にしてから、成功につながるコーチングのコンピテンシーを特定し、次にそれらのコンピテンシーからクライアントの望ましい行動変容をどの程度予測できるかを調べた。