自社のありのままを公開することで得られるもの
■他者を巻き込む 責任ある企業は、サプライヤーや顧客、競合他社、標準化団体、第三者機関などと情報を共有し、その情報を活用するため、他者を巻き込んでいかなければならない。会社というところには、特許が取れそうな技術、事業開発戦略、クッキー生地に混ぜ込むバニラが取れるマダガスカルの神秘的な島など、社外に出さず、守るべき情報がある。しかし実際のところ、社外秘とされている情報には、公表したほうがいいものも多い。たとえば工場のリストなどは、公表したほうが絶対にいい。そうすると、そこまで大胆ではない他社に「ベストプラクティス」を与えることになるだろう。なにに挑戦しどう成功したのかを公開すればするほど、社会・環境のフットプリントを削減しようと苦労している同業他社を助けることができる。それがいいのだ。自然や人類を危害から守る闘いでは、我々全員が同じ側に立っているのだから。 さらには、業界全体を巻き込んで作業部会をつくり、原材料の不足、廃棄物、排水にどう対処すべきか、また、現場社員の不平・不満にどう対処すべきかなど、共通して使える方法を開発するのもよい。動物の福祉、化学薬品の使用、製品の質、労働慣行などをどうすべきか、合意を形成することもできるだろう。パタゴニアは公正労働協会、テキスタイル・エクスチェンジ、サスティナブル・アパレル・コーリションの創設メンバーであり、活発に活動を展開している。また、アウトドア産業協会、Bラボ、ブルーサインとも緊密に協力している。業界全体を変える力を持つこのような協力体制は、透明性なしには生まれえない。 報告の形式はさまざまだが、いずれにも限界があり、どうするのが一番いいのか、いまだに模索が続いているが、それでも、我々には、20年にわたる蓄積がある。たとえば、第三者による監督なしの自己評価では、アカウンタビリティが特に甘くなりがちだ。認証が受けられるスコアになるよう数字をいじることが可能だからだ。そんなことをすれば、現実に悪影響が出てしまう。 だからパタゴニアでは、自己評価に加えて第三者による監督を重視している。自分たちの力ではどうにもならないと感じる場合を中心に、自己評価はつらいこともある。通常の方法で栽培されたコットンが自然に多大な負荷をかけていると知ったとき、我々は、思わずうめき声を上げるほど嘆き悲しんだ。そして、それをオーガニックコットンに切り替えるのがいかに大変であるのかがわかったときには、嘆きが深まってしまった。
ヴィンセント・スタンリー,イヴォン・シュイナード