相次ぐ災害 農地、施設の復旧支援策は? 「激甚災害」指定で負担減
指定までは「1、2カ月程度」
線状降水帯に伴う大雨や台風による農業関係の被害が各地で相次ぐ。水田や樹園地に土砂が押し寄せ、農業機械も破損して離農を考える農家も多い中、産地再建には行政による復旧支援が必要だ。具体的に、どのような制度があって、どこまで支援されるのか。本紙「農家の特報班」が探った。 【表】過去5年で「激甚」に指定された災害 記者が最初に調べたのは、大規模災害の発生時によく耳にする激甚災害指定の仕組み。所管する内閣府に取材すると、「激甚災害法に基づき、台風や地震などで著しい被害を起こした災害を指定する」(担当者)とのことだった。 災害発生から指定までにかかる期間は「おおむね1、2カ月程度」(同)。指定されると一部の国の災害復旧関連事業が手厚くなる。 ◇ 次に記者は、激甚災害指定によって農業関連の事業がどうなるかを調べた。農水省によると、大きく分けて①農地の復旧②農業用施設の再建・修繕など③資金繰り──が手厚くなるという。 農地や農道の災害復旧事業は、国庫補助率が通常だと8割、共同利用施設は2割だが、最大で9割程度に引き上がる。通常の事業よりも農家の負担額は圧縮される。対象の共同利用施設は、加工施設や選果場、カントリーエレベーターなどが含まれる。 いずれも被災前の形状に復旧する「原形復旧」が基本。だが、農地が原形に戻せないほど大規模に被災した場合、「区画の形状を整える改良復旧の場合もある」(同省災害総合対策室)。 資金繰りは、被害を受けた農家の経営再建に必要な資金を借り入れやすくする。具体的には、農水省の「農林漁業セーフティネット資金」など対象資金を貸付当初5年間、無利子にする。「農業近代化資金」は、農業信用基金協会の債務保証料を貸付当初5年間免除する。 ◇ 一方、記者が被災した農家を取材すると、所有する機械の全てを失い、年齢などで「新たに借り入れるのは難しい」との声も聞こえてくる。
にじむ限界 既存の支援策 9割補助で営農継続も
「災害がなければ、まだまだ農業を続けられた。今から農機のために新しくローンを組むとなると、非常に厳しい」 7月の記録的な大雨によって、所有していたトラクターや田植え機、コンバインの全てを失った東北地方の水稲農家は、記者にそう打ち明ける。少なくとも被害額は2000万円を見込む。 山形県は、7月の記録的な大雨被害を受け、県独自の「農林水産物等災害対策事業」で、農機の修理・再取得などを支援する。農業共済組合の農機具共済に加入していて、修理・再取得にかかる費用の9割が支払われることを想定。県は大型農機で最大67万円などの補助を設け、市町村はそれに上乗せする。 農機具共済の未加入者は、県の補助があっても修理・再取得にかかる自己負担が大きいため、県は「今後も共済加入を促す」(農政企画課)と話す。その上で「これまでにない災害が起きている。県と市町村の財源だけで、農家を支援するには限界がある。国の支援も必要」(同課)と指摘する。 記者が取材した水稲農家も農機具共済には入っていなかった。 激甚災害指定によって農地や施設の復旧、資金の借り入れなどは支援される。農機具などの共済もある。ただ、災害の頻度や深刻さは増しており、既存の支援ではカバーしきれない農家が増える可能性がある。 記者が取材を進めていくと、政府は、これまでの災害で、激甚災害指定にはない農機の再取得などの支援措置を講じたことがあることも分かった。死者・行方不明者、建物倒壊が多数発生した際の「特定非常災害」指定に伴う支援措置だ。 2020年7月、熊本県を中心に襲った梅雨前線に伴う豪雨は「激甚災害」「特定非常災害」の両方に指定された。同県の場合、農機の再取得や修繕にかかる費用について、国が最大5割を、県と市町村がそれぞれ最大2割を補助。補助率は最大9割となり、残りが農家負担となった。 熊本県内のJA担当者は「離農を考えるも補助事業によって、経営を再建させた農家もいる」と振り返る。 これまで特定非常災害に指定された災害は、能登半島地震など8つ。自治体関係者からは「いずれも被害規模が大きかった災害だったとはいえ、支援措置は今後の災害復旧支援のモデルにしてもいいのではないか」との声も出ている。 (高内杏奈)
<ことば> 激甚災害指定
被害が広範囲に及ぶ場合は対象地域が複数都道府県にわたる「激甚災害(本激)」と、主に市町村単位の局所的災害が対象の「局地激甚災害(局激)」に分かれる。国庫補助のかさ上げ率は同じ。いずれも最終的な補助率は自治体によって決まる。
日本農業新聞