アカデミー強化のキーマン2人が共有する育成の真髄とは? J1初挑戦のFC町田ゼルビアが招聘した「ラストピース」
強豪ひしめく中で見据える長期ビジョン
2人が「忘れられない試合」と語るのが、両者が一度だけ監督として対戦した、2019年末の皇后杯準決勝だ。 当時、永田氏が率いるベレーザはリーグ4連覇・国内3冠の“無敵艦隊”。一方、菅澤氏が率いていた埼玉は2部で、常勝チームではなかったが、すべての試合で圧倒的なボール保持率を誇り、戦術の引き出しの多さは1部のチームを凌いでいた。 一発勝負では往々にして「個の力で劣るチームが守備を固めてカウンターを狙う」展開になるが、菅澤氏率いる埼玉は真っ向からポゼッション対決を仕掛けた。その日は大雨で寒かったが、相手の変化を柔軟に受け止める両者の多彩な戦略が試合を洗練させ、会場のボルテージは上がり続けた。最後はベレーザが延長戦を制して勝負をつけたが、その試合は黒澤映画のワンシーンのように、筆者の記憶にも焼き付いている。 「すべての選手が『巧く・賢く・タフに』なってもらえるように手助けする」 菅澤氏がアカデミーダイレクター就任当初に掲げたミッションを遂行するための“ラストピース”が揃った今、描く未来図とは? 菅澤氏は言う。 「J1のアカデミーは、関東圏でヴェルディ、FC東京、(横浜F・)マリノス、川崎フロンターレ、湘南ベルマーレと、強豪がひしめいています。複数チームを持っているクラブもあるので、(選手たちの希望進路において)後発である我々の優先度はどうしても低くなってしまうんです。スカウトの整備も進んでいますが、いい選手たちを手元に置いて育てていく、サイクルを作っていくのには時間はかかると思います。それを待つことができずに、新しいマインドに変えたチームが次々に崩壊しているのも現実なので、それをコツコツやっていけるかどうかが大きなポイントだと思っています」 1年や2年で結果が出る世界ではないからこそ、腰を据えて選手たちと向き合う覚悟やビジョンがなければ、クラブも指導者も、真の意味で選手を「育てる」ことなどできない――そんな、強いメッセージが込められているように思えた。 2024年、J1での新たな挑戦とともに、町田のアカデミーも新たな歴史を歩み始める。 <了>
文=松原渓[REAL SPORTS編集部]