アカデミー強化のキーマン2人が共有する育成の真髄とは? J1初挑戦のFC町田ゼルビアが招聘した「ラストピース」
「個」のポテンシャルを最大化する指導とは?
男女も含めてすべてのカテゴリーを指導してきた永田氏は、選手と向き合うアプローチについて「どのカテゴリーでも変わりません」と話す。 そのアプローチとは、「選手一人一人が選手としての質を高める」ように導くこと。では「質を高める指導」とは、具体的にはどのようなものだろうか? 女子サッカーの現場で選手たちから聞いた話の中で特に印象的だったのは、選手個々に対して、試合の振り返り映像のほかに、スキルを伝授するための動画を作っていたことだ。南米など、海外の男子サッカーの映像を中心とした素材から、試合の中で有効なスキルを切り取ってまとめたものだ。 たとえばキック、ターン、ヘディング、ドリブル、トラップなどの大枠から、「どの姿勢でボールを受けるか」「味方と連係するか」など、状況別に枝分かれしていく「技術部門」だけで30から40のスキルがあるという。それを、ポジションやプレーエリア、選手の特徴も加味して作成した動画だ。 コロナ禍では永田氏とのそのやり取りが日課となり、選手たちはスキル研究に没頭しながら、グラウンドでプレーできない時間を有効に使っていた。 なでしこジャパンで不動のウィングバックを務める清水梨紗は当時、「監督から毎日送られてくる参考になるプレー映像を見ると、『うわー!』と興奮して、サッカーがしたくなります」と嬉しそうに語っていた。 当時の話によると、映像編集にかける時間は毎日7~8時間。練習後は新しいスキルに挑戦する選手の自主練に付き合い、最後にグラウンドを後にすることも多かった。文字通り、寝る時間も削って向き合っていた。その情熱が選手に伝わらないはずがない。 試合中のテクニカルエリアに立つ姿には、どこか達観した仙人のようなオーラが漂っていた。 チームを離れても、教え子との関係は変わらない。イギリスで活躍する籾木結花やアメリカでプレーする三浦成美とは、今も映像などを通じたやり取りを続けているという。「サッカーが巧くなりたい」という選手たちの探究心が続く限り、全力で応えていくつもりなのだろう。 そんな人だから、今回、「町田で全カテゴリーでのヘッドコーチ就任に際してどんな目標を描いているか」と訊ねた際も、予想を裏切らない硬派な答えが返ってきた。 「僕は目の前にいる選手の質がいかに高まるか、ということしか喜びにはなりません。一人一人がサッカーを面白くプレーしながら向上していってほしい。それはどこで、誰を見ていても変わらないので、教える場所が変わっても『新たな目標』を持ったことはないです。(菅澤)大我が設計してくれたものを、僕は現場で形にしていく作業員ですから」