パリコレでファッションの未来を実験し続ける「ユイマ ナカザト」 ドキュメンタリー映画が公開
「もうこれ以上服はいらない」という切実な思いと対峙して見えたもの
WWD:映画の中で投げかけられる問いの一つが、「服作りとどう向き合うか?」だった。ケニア滞在を通して見えた中里さん自身の答えは?
中里:ケニア滞在後に一番大きく変わったのは、今この時代にどんなメッセージを発信すべきなのかを一度立ち止まって考え直す意識だろう。ケニアに行く以前から、果たしてデザインは一体何ができるだろうという問いはずっと頭の中にあった。もちろんベターな素材を選択することも1つだが、それ以上にデザイナーにできることはインスピレーションを届けること。「もうこれ以上服はいらない」と思っている人たちと現地で対面して、作り手として言葉に詰まった。でも、人間が表現したり、モノを生み出したりすること自体を否定してしまったら存在意義すら無くなってしまうのではないかと思う。表現の全てを否定するのではなく部分的に調整していくことがこれから先のサステナブルファッションの現実的な進め方なのだろう。
WWD:ファッション産業にさまざまなレイヤーがある中で、実際に日本の作り手はケニアの現状を自分ごととして捉えられない人が多いのでは。
中里:同じ衣服でもいろんなカテゴリーがあるのは事実だが、私は全てグラーデーションのようにつながっていると考える。例えばF1レースで生まれた技術が、10年後に乗用車に反映されているように、オートクチュールも日々の暮らしを支える衣服といろいろな形でつながっている。だから受注生産で環境負荷が低いから自由にやっていいというわけではない。作る上での責任はみんなにある。だからこそ、発表する前に立ち止まって自分に疑いの目を向けるアクションが重要だ。
WWD:同じファッションの作り手にはどんなことを伝えたい?
中里:私は未来のデザイナーを育成・支援するファッションアワード「ファッション フロンティア プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM)」も主催しているが、そこでは既存の型にハマらずに軽やかに社会に目を向けながらデザインを起こす人たちがたくさんいて、自分も刺激を受けている。なかなか周りのデザイナーがどのように服を作っているのか知る機会が少ない中で、何か刺激を受け取ってもらえたらいい。