「官製ファクトチェックにつながる懸念」にどう答えるのか、総務省検討会の座長・宍戸教授に聞く(前編)
「大手SNS事業者に偽情報対策の整備を求める。その制度化を検討」
――7月に検討会が公表した「とりまとめ(案)」は全部で350ページ近くあります。座長として内容をかいつまんで言ってもらうと、どのような内容なのでしょうか。 宍戸:私は、「とりまとめ(案)」の分量がすべてだと思っているんです。つまり現状認識と課題、総合的な対策という形で全体像を見せると、これだけの量になってしまうわけです。まずはこの分量のそのものをお見せして、社会の批判やご意見を伺うため、問題提起をするしかない。逆に言うと、依然として結論は決め打ちしていないということです。 一方で、現在の偽情報の流通などに対する一定の対策を行うための体制整備を大手SNS事業者に求めるという方向性は、具体的なものとして示しています。これについては強いご批判などがなければ、今後は制度化に向けて詳細を検討していくことになると思います。その前提として官民協議会のようなものを設置すべきだ、ということにも触れています。 この制度化についても、深掘りしていくなかで課題が出てくるでしょう。それも含めて、現状の認識、課題を「とりまとめ(案)」で提示し、総合的な対策のイメージを示したのであり、多くのご意見、ご批判をいただくことが必要だと思っています。それが今の「とりまとめ(案)」だという認識です。
「政府による実質的な検閲、介入は常にリスクとして内包。その懸念も報告書に盛り込んだ」
――「とりまとめ(案)」は、官製ファクトチェックへの懸念を払拭するものになっているのでしょうか? 宍戸:検討会の場でもその点はご指摘をいただいていており、懸念は相当程度、払拭できていると思います。官製ファクトチェックが現実のものにならないようにするという点で、学識経験者ら検討会の構成員の意見は一致していると思います。 ただ、政府と表現の自由の関係では、実質的な検閲、介入は常にリスクとして内包されています。行政規制でなくても、名誉毀損などの名目で偽情報に対応するなどということが始まれば、かえって危ない部分もある。そうしたことが政府の公開の検討会で懸念として指摘され、それが報告書の形で残ったわけです。今後さらに検討会や報告書に対して批判をいただくことが大事だと思っています。 ――検討会では、総務省による「インターネット上の偽・誤情報対策技術の開発・実証」事業について報告もありました。この事業が官製ファクトチェックにつながる懸念も指摘されています。 宍戸:実証事業はこの検討会とは別に政府が行っているものですが、検討会でも、事業者の選定や事業の内容の情報公開が不十分ではないかという指摘もありました。これについては今後も事業の説明、報告をしていただき、公開の場で繰り返し議論を続けていくことが、官製ファクトチェックの可能性を防ぐ上で大事なことだと思います。 (後編に続く)
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