「官製ファクトチェックにつながる懸念」にどう答えるのか、総務省検討会の座長・宍戸教授に聞く(前編)
ファクトチェックへの国家の介入の懸念は
――総務省の検討会では、ファクトチェック団体の位置付けについても議論が行われていました。この議論がもとになって、ファクトチェックに対する国家の介入が容認される懸念はないのでしょうか。また、ファクトチェック団体が国の関与を受けつつ、結果的に「情報やニュースの正確性の裁定者」となってしまう恐れはないのでしょうか。いずれであっても、憲法で保障されている表現の自由が脅かされる懸念があるように思えるのですが。 宍戸:ご指摘の通り、リベラル・デモクラシー(自由と民主主義)の国の言論は、国家から自立して、市民社会、メディア、言論人が議論していくのが基本です。それは変わらないし、変わるべきではありません。 総務省の検討会がいわゆる「官製ファクトチェック」につながっていくのではないかという懸念が出ているのは承知しています。しかし、はっきり言えば、官製ファクトチェックのようなものは、あって然るべきではありません。今の納税者意識、社会の意識からも、とうてい認められないでしょう。 ――では、総務省の検討会はいったい何を目指していたのでしょうか。 宍戸:政府も結論ありきで検討会を作っているわけではないと思いますし、ファクトチェックの問題だけではなく、総合的な対策を議論してきました。ただ、対策の一部について今後は「こういう法律を作りたい」となっていくかもしれない。検討会の成果を踏まえて具体的な法案を作るとか、法律を作るために別の研究会を立ち上げるとか、特定の方向に向かうモードになるのかもしれません。 しかし、とりまとめ(案)を公表した今の段階では、私にはそこまでは見えていませんし、こうして関心を喚起したことも含めて、現状は健全だと考えています。 ――具体的に言いますと? 宍戸:検討会の前半の議論では、偽情報やリテラシーの問題も含め、現在の情報空間をどう考えるかという全体像を描くことが目的でした。ですから、プラットフォーム事業者だけでなく、いろんな方に加わってもらい、意見をいただいたわけです。その中では「政府にファクトチェックのことなんか議論させていいのか」という議論も出てくるでしょう。それでいいんです。すでに活動している、日本ファクトチェックセンター(JFC)を批判的に報道してもらうのも、ありがたいことなんです。 ただ、検討会の後半の議論で出てきた大きな問題は、ファクトチェックよりもSNSの詐欺広告や有名人になりすました広告です。それについては、モニタリングや制度的対応を検討しないといけないことは、明確になってきました。