人口の東京圏一極集中は是正できるのか─大都市の人口再生産と人口分布構造
人口減少に入った日本。各地方自治体は人口が流出する社会減を食い止め、住んでみたいまちになるための施策に頭を悩ませています。 人口減少時代に対処するには、何を考えるべきなのでしょうか。福井県立大地域経済研究所特命講師、丸山洋平氏が、人口移動や家族の姿の変化から、日本の人口を捉えるための視点について、連載します。
本連載では、私が研究している人口移動と家族形成との関係という視点から、日本の人口変動について考えてみたいと思います。第1回として取り上げるのは、人口の東京圏一極集中の問題です。 「東京一極集中」という言葉には、政治・行政や経済活動、文化活動等も含まれていますが、ここでは「人口減少時代」というテーマに即し、人口分布の問題として見ていくことにしましょう。 図1は国勢調査による東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の総人口と全国人口に占める割合の推移を示しています。戦争の影響で一時的に減少するものの、それを除けば一貫して東京圏の人口は増加し、対全国割合も上昇してきました。 1945年と2015年を比較すると総人口は2676万人の増加、割合は15.4%の上昇であり、今や日本にいる人口の4分の1以上が東京圏に居住しています。面積でいえば東京圏は日本全体の3.6%にしか過ぎませんから、まさに人口の東京圏一極集中です。
人口移動だけが一極集中の原因か
この一極集中の状況は日本政府も大きな課題として認識しています。「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2016年改訂版)」では、「地方から東京圏への人口流出に歯止めをかけ、「東京一極集中」を是正する」という表現がありますし、戦略の基本目標である「地方への新しいひとの流れを作る」では、「東京圏からの転出者と、東京圏への転入者を均衡させ、東京一極集中の流れを止めることを目指す」ということが掲げられています。 こうした内容からは、人口の東京圏一極集中と、地方圏から東京圏への人口移動とが強く関連していると認識されていることが読み取れます。確かにその通りだと思いますが、それだけでしょうか。この疑問は「人口の東京圏一極集中の要因は人口移動だけであるのか?」、または「人口移動の状況が改善されると人口の東京圏一極集中は是正・緩和されるのか?」とも言い換えられます。こうした疑問に対する解答を探るため、まず、これまでの日本国内の人口移動について概観してみたいと思います。 戦後日本の国内人口移動の中心は地方圏から大都市圏への移動であり、日本の都市化(都市人口割合の上昇)に結びついてきました。図2は住民基本台帳人口移動報告年報による三大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)の転入超過数の推移を示しています。 1960年代の高度経済成長期、1980年代後半のバブル経済期、1990年代後半から現在に至るまでの3つの大きなピークがあることがわかります。1960年代はいずれの大都市圏にも大きな転入超過がありましたが、1980年代後半と1980年代後半以降では東京圏のみが転入超過となっています。 また1990年代後半以降の東京圏の転入超過数は2007年にバブル経済期に匹敵する水準に達し、リーマンショックを機に縮小したものの、2012年以降は再びバブル経済期の水準を目指す動きを見せています。大阪圏・名古屋圏の相対的な経済の地盤沈下も背景としながら、人口移動による東京圏への人口集中傾向が相対的に強まっていることがわかります。 ここで先ほどの「人口の東京圏一極集中の要因は人口移動だけであるのか」という疑問に立ち返ってみましょう。1954年から2016年までの東京圏の転入超過数を累積すると956万人になります。 ですが国勢調査によると、東京圏の総人口は1955年から2015年にかけて2071万人増加しています。転入超過、すなわち人口の社会増加は東京圏の人口増加の半分にも満たないのです。ということは、東京圏の人口一極集中には自然増加(出生数-死亡数)も大きく寄与していたということになります。