人口の東京圏一極集中は是正できるのか─大都市の人口再生産と人口分布構造
東京圏生まれの割合が大きい日本社会
戦後、高度経済成長期頃までの東京圏の人口増加は、地方圏からの転入が牽引してきました。東京圏に転入した最初の世代、「大都市1世」が東京圏内で家族を形成し、生まれたのが1961~65年コーホート以降の「大都市2世」です。大都市2世の誕生により、東京圏の人口増加は人口移動だけでなく、出生数の増加にも牽引されるようになりました。今では大都市3世も誕生してきています。 この東京圏の人口増加の背景要因の変化は、これから先のことを考える上で重要です。つまり、東京圏生まれの割合が大きいという日本全体の地域構造が既に出来上がってしまっているということを考慮する必要があるということです。 国の方針は先に述べましたが、仮に東京圏と東京圏外との間の人口移動の均衡が達成されたとしたら、東京圏の人口はどのように変化するのでしょうか。国立社会保障・人口問題研究所は地域別の将来人口を推計しており、過去の出生・死亡・人口移動の傾向が続いた場合の推計値と、参考値として人口移動が発生しない状況を想定した「封鎖人口」による推計値を公表しています。
前者を通常人口推計、後者を封鎖人口推計として東京圏の総人口と全国人口に占める割合を示したものが図4になります。この推計人口は2010年国勢調査を基準として算出されたものであるため、2015年以降は推計値です。 封鎖人口推計の結果を東京圏と東京圏外との人口移動の均衡が達成されたものとして捉えてみましょう。通常人口推計と比較して封鎖人口推計は、人口移動による増加がない分、総人口の減少のペースは速くなっています。ですが、対全国割合は通常人口推計のように上昇はしないものの、低下もしない。ほぼ横ばいです。一極集中は緩和していると言えるかもしれませんが、是正はされていません。 既に大きな割合を占める東京圏出身者が東京圏に留まり、大都市3世、4世といったように人口再生産を繰り返していくため、東京圏一極集中の状況には大きな変化が生じないのです。 これが現在の日本が置かれている人口分布の構造的条件ともいえるものです。こうした条件のもとで人口の東京圏一極集中を是正するとしたら、「地方圏から東京圏への人口移動を抑制する」、「地方圏出身者の地元へのUターンを増やす」という取り組みでは十分な効果は得られないでしょう。東京圏出身者が東京圏外に居住するという状況にならなければなりませんが、困難な道であると思います。 要は、地方圏出身者は出身地に居住することが推奨されるのに、東京圏出身者は出身地を離れることが推奨されるということですから、出身地によって平等な扱いがされないようなものです。日本国民には居住地選択の自由が認められていますから、強制的に居住地を変更させるなどということもできません。 こうしたことを踏まえて考えたいと思うのは、人口の東京圏一極集中の問題と、地方圏の持続可能性の問題を強く関連付けすぎない方がいいだろうということです。地方圏からすれば、若年人口が流出してしまう状況を改善しなければ人口減少を緩和することはできませんので、流出を抑える・Uターンを増やすための取組みは必要です。 しかし、その成果として人口の東京圏一極集中が是正・緩和されることはあまり期待できないわけですから、一極集中の状況をある程度前提にした国土政策をたてた上で、東京圏内で生じる課題、例えば孤立状態の高齢者の増加等の解決に力点を置いた方が効果的なのかもしれません。 その課題解決のプロセスで、地方圏と東京圏の自治体が連携していく方法を模索していく方が現実的ではないだろうかと思います。 ---------- 丸山洋平 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学、博士(学術) 新宿自治創造研究所非常勤研究員、慶應義塾大学特任助教などを経て、2015年4月より福井県立大学地域経済研究所特命講師 専門は地域人口学、人文地理学、家族社会学