【“マルキの闇”裁判終結へ㊤】兵庫県警機動隊員連続自殺「息子は警察に殺された」記者が追った8年半
2015年秋、兵庫県警機動隊、通称「マルキ」で若き警察官2人が相次いで自殺した。そのうち一人の遺族が「パワハラが原因だった」として、兵庫県に損害賠償を求めていた裁判で、兵庫県警側がパワハラを認めて謝罪することなどを条件に、3月22日に和解が成立する見込みだ。かつて「パワハラはなかった」と結論付けた兵庫県警の調査結果が、長い歳月を経て覆されることになる。 自殺の真相を独自に追い続けてきた記者が、遺族の8年半におよぶ闘いを振り返る。(全3回の第1回/取材報告:読売テレビ橋本雅之) 【マルキの闇】兵庫県警機動隊 連続自殺 塗りつぶされた「真相」
■約20人の小隊で起きた「異例の連続自殺」パワハラ示唆する遺書も
2015年、私は入社2年目の記者として読売テレビの神戸支局に勤務していた。 10月上旬、警察関係者への取材で「兵庫県警の機動隊員2人が相次いでパワハラを訴えて自殺した」との情報を得た。 すぐに兵庫県警の監察官室に問い合わせたところ、神戸市須磨区にある機動隊の独身寮「雄飛寮」で、20代の男性巡査2人が相次いで自殺を図っていたことが判明。先輩隊員からパワハラを受けていたことなどを示唆する遺書も見つかっていて、兵庫県警が内部調査を行っているという。 さらに関係者への取材を進めると、自殺を図った2人は、ともに機動隊の第一中隊第一小隊、通称「イチイチ」に所属する山本翔巡査(当時23)と木戸大地巡査(当時24)であることがわかった。 兵庫県警機動隊、通称「マルキ」。約20人で構成される小隊の中で、わずか一週間に2人の若き警察官が自殺するのは異例の事態だ。 当時の私は、木戸巡査と同い年の24歳だった。自分と同じ世代の警察官2人が、なぜ自ら命を絶たなければならなかったのか。警察組織の中で一体何が起きていたのか。連続自殺の真相を明らかにしなければ、また同じことが繰り返されてしまうのではないか。そんな思いから、「マルキの闇」の真相に迫る8年半におよぶ取材が始まった。
■兵庫県警の内部調査では「いじめやパワハラはなかった」
取材を始めて2か月。開始早々、取材は暗礁に乗り上げた。 2人の自殺について内部調査を行った兵庫県警が、機動隊の同僚や上司ら約130人に聞き取りを実施した結果、「いじめやパワハラはなかった」と結論付けたのだ。遺族には、この調査結果を口頭で報告し、「自殺した原因はわからなかった」と伝えたという。 この調査結果は、後に長い歳月を経て覆されることになるのだが、当時の私は"捜査のプロ"である警察が出した「パワハラなし」という調査結果を前に、これからどう取材を進めていいものかと悩んでいた。 そこに追い打ちをかけるような出来事が起きる。兵庫県警の調査結果が出てからしばらくして、県警の幹部と県警記者クラブによる懇談会が開かれた。私は、その懇談会で県警トップの本部長(当時)が口にした言葉を鮮明に覚えている。 本部長は、瓶ビールを各社の記者たちに注ぎながら言った。