【卓球】世界の卓球ツアーはWTTが基軸に。昔の形にはもはや戻れない
イベントとしての破壊力と集客力──WTTが卓球の価値を変えつつある
今年11月に開催された「WTTファイナルズ福岡」が成功裡に幕を閉じた。男女同時開催という形で行われた今大会は、昨年を上回る集客力を見せ、メディアでの露出も大幅に増加。その盛り上がりを目の当たりにした今、もはや従来のツアー形式には戻れないだろう。 そもそも「WTT」とは、「World Table Tennis」の略称だ。これは、ITTF(国際卓球連盟)が「世界卓球選手権」の名称を専有しているため、それに代わる名称として設けられたものである。WTTはITTFの傘下ではあるものの、ITTFが公的機関であるのに対し、WTTは利益を重視する民間組織として運営されている。テニスでいうATP(男子プロテニス協会)やWTA(女子テニス協会)に近い存在だ。事実上、WTTは2021年に発足し、新しい卓球ツアーの形を築いている。 大会最終日、北九州市立総合体育館に到着した際、その熱気に圧倒された。開場を待つ長蛇の列が体育館の高台から道路まで続き、海外から訪れた観客も多数見受けられた。特に中国からの観客、もしくは日本在住の中国人は「推し」の選手を応援する手作りグッズを手に、熱狂的な雰囲気を醸し出していた。この光景は、コロナ前の国際大会とは明らかに異なるものだった。 かつて、ITTF主催の「ワールドツアー(プロツアー)」が世界各地で行われていたが、現在ではWTTに一本化されている。WTTは世界ランキングと完全に紐づけされており、世界を目指す選手たちはWTTに参加することが必須となっている。コロナ前のジャパンオープンが旧時代の基軸とするならば、WTTはコロナ後の新しい基軸として確立されつつある。 特に注目すべきは、「推し活女子」の存在だ。彼女たちの積極的な応援が会場の盛り上がりを支え、イベント全体の価値を大きく引き上げている。ある選手の母体チーム関係者はこう語る。 「WTTが始まった当初は不手際も多く、選手や関係者からの不満も多かった。しかし、今回の福岡大会を見る限り、あらゆる面でかつてのジャパンオープンを上回っている」 WTTの日本開催において、日本卓球協会は主管団体でも共催団体でもない。大会の規模はおよそ3億円とされるが、この規模のエンターテインメントイベントを協会が独自に毎年のように実施するのは簡単ではないだろう。一方で、「協会が経費を負担することなく、卓球を宣伝してもらっている」と前向きに捉える見方もあるだろう。 いずれにせよ、WTTは卓球の新しい可能性を切り拓いている。もはや従来のジャパンオープンに戻る道はなく、WTTの成功は日本卓球界にとっても不可欠なものとなっている。
今野昇