東京都心の上空通る「羽田新ルート」代替ルート導入を先送り…航空機炎上の事故で「時期尚早」
東京都心上空を通って羽田空港に着陸する「羽田新ルート」を巡り、国土交通省は、騒音負担を分散するため検討していた代替の仮ルート導入について、結論を先送りする方針を固めた。東京湾岸ルートを非公表で検討し、技術的に採用可能な飛行方式は定まったが、1月の航空機衝突事故を受け、管制運用の大幅変更や複雑化は当面、慎重に検討すべきだと判断した。 【地図】一目でわかる…「羽田新ルート」と代替仮ルート案のイメージ
政府関係者が明らかにした。国交省は近く、外部有識者による技術的検討会を2年4か月ぶりに開き、正式に決定する。
同検討会は、羽田新ルート直下の関係自治体・住民から騒音などへの意見が寄せられたことを受け、運用開始2か月後の2020年6月初旬、赤羽一嘉国交相(当時)が設置を指示した。パイロット経験者や航空管制の専門家など8人が会合を重ね、管制運用や航空機器の観点からルート変更の可否を話し合ってきた。
国交省はこの過程で、騒音負担の大幅な軽減につながる海上ルートへの代替を見据え、複数の飛行方式について羽田空港での採用可否を検証した。
その結果、現時点では、全地球測位システム(GPS)信号を基に自動操縦で高精度の曲線飛行が可能な「RNP―AR」と呼ばれる飛行方式が、安全面から「技術的に適し、採用可能」と判断された。
ただ、国内航空大手でも多数使用している中型旅客機「ボーイング767」がRNP―AR方式に対応できず、他の対応機でもパイロットに初期・定期訓練が必要となるため航空各社に負担が生じる。
さらに、1月の日本航空と海上保安庁の航空機衝突事故を受け、滑走路や空域を監視する管制官の業務負荷が改めて注目される中、運用上の大きな変更やさらなる複雑化がヒューマンエラーのリスクとなりうる点も踏まえ、導入は「時期尚早」と判断した。
国交省は、国際動向や最新の技術的知見に関する調査・研究を続け、航空各社のRNP―AR対応機の導入状況を追跡調査するなど、新ルートの固定化回避に向けた努力を継続する。
◆羽田新ルート=南風時の午後3~7時のうち3時間程度、新宿や渋谷、品川など都心上空を南下し、A、C滑走路に着陸する。羽田空港の国際競争力強化と、千葉県に偏る騒音負担の分散を目指し、20年3月29日に運用を始めた。1時間あたり最大90回の発着が可能になり、昼間の国際線発着枠は年間6万回から9万9000回に増えた。