「墓石」に振り回される日本経済 主要指標「家計調査」に見えた異常事態
報告者の負担の大きさが回答に影響
また、家計調査の集計にあたって報告者(家計)の負担が大きく、正確な回答ができていない可能性があることも問題です。一口に家計簿といっても、実際は品目の分類が難しいものがあったり、購入した「量」を図ったり、「単価」を加味したりする必要があるので、記入にはそれなりの労力を要します。そうすると記入漏れによって、消費が少なめに見積もられる可能性があるほか、多忙な人々が調査協力に応じないという問題を引き起こします。ここでいう多忙な人々に、共働き世帯が多く含まれている(と思われる)ことがポイントです。一般に共働き世帯は収入が多く生活が安定している傾向にあるため、経済の逆風に持ち堪えられると考えられますが、これらの人々が集計から抜け落ちてしまえば、経済の逆風に脆弱になると考えられるからです。要するに実態よりも、景気減速の弱い世帯が多く含まれいている可能性があるのです。
これらを踏まえて、家計調査で消費増税前後の落ち込みを見てみましょう。統計がおかしいと決めつけるのは禁物ですが、この弱さの説明として統計の不完全さが指摘されるのはうなづける気がします。実際、消費を販売側から推計した「商業販売統計」や日銀が独自に作成している「消費活動指数」とはかい離が生じており、どちらが正しいのかと、疑問を投げかけたくなります。
以上、みてきたように家計調査は様々な問題が指摘されているのですが、これはエコノミストや政策担当者に限った問題ではありません。政府が今年の春、消費増税の先送りを決定した際、その背景にあったのは深刻な消費停滞でした。つまり、経済統計は政策策定や税金の使い道に非常に大きな影響を与えるのです。そう考えると、統計の改善が急務と言えます。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。