忠誠心重視、実力・倫理は軽視◆人事が示すトランプ氏の狙い◇笹川平和財団上席フェロー 渡部恒雄
人選を急ぐ必然の理由
2024年11月5日の大統領選で当選したトランプ氏は、予想以上の速さで政権人事を進めている。これには合理的で必然的な理由がある。25年1月にスタートするトランプ政権は2期目であり、憲法上、3期目の出馬は認められないため、早く政権を立ち上げなければ活動期間は短くなる。既に政権を担ったことがあるトランプ氏が、その経験と反省から任用を急ぐのは当然のことだ。 【写真】国防長官に指名されたピート・ヘグセス氏 外交・安全保障分野では、「力による平和」を体現するような保守派・タカ派が指名された。国務長官に指名されたマルコ・ルビオ上院議員や大統領補佐官(国家安全保障担当)に任用されたマイク・ウォルツ下院議員は、タカ派で対中強硬姿勢の急先鋒(せんぽう)だが、伝統的な保守現実派であり、議会からの信頼もある。日本などの同盟国には安心材料だ。 一方、国防長官に指名された元FOXニュース司会者のピート・ヘグセス氏は犯罪歴などが指名承認の壁になると指摘されている。そもそも退役軍人とはいえ、巨大官庁・国防総省の幹部経験は皆無であり、実力不足は明らかだ。
陰謀論の議員に、飼い犬銃殺の知事
人事の多くは予想を超えて身内人事であるため、米国内外で批判や懸念を呼んでいる。特に司法とインテリジェンス関連で言えば、実力的にも、倫理的にも、その資格のない人物が、トランプ氏によって相次ぎ指名されている。 司法長官には当初、マット・ゲーツ前下院議員が指名されたが、性犯罪に関わった疑惑が浮上。身内の共和党からも疑問の声が上がり、本人が辞退した。代わりに、トランプ支持者のパム・ボンディ前フロリダ州司法長官が起用された。21年1月の連邦議会襲撃を扇動した嫌疑に問われた弾劾裁判で、トランプ氏の法律顧問と弁護人を務めた人物だ。 国家情報長官に抜てきされたトゥルシー・ギャバード元下院議員と国土安全保障長官に指名されたサウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事は、ともに熱狂的なトランプ支持者だが、その能力には疑問が持たれている。ギャバード元下院議員は、ウクライナ侵攻はロシアの責任ではないという意見を持ち、陰謀論を公言。ノーム知事は自伝の中で、「訓練がうまくいかなかった」という理由で過去に1歳2カ月の猟犬を銃で殺処分したことを書いて問題となった。 また、中央情報局(CIA)長官と連邦捜査局(FBI)長官には、トランプ氏に対する捜査に批判的なジョン・ラトクリフ前国家情報長官とカシュ・パテル元国防長官代理・主席補佐官がそれぞれ指名された。パテル氏は司法や警察の専門家ではなく、やはりトランプ氏の最側近の一人である。