忠誠心重視、実力・倫理は軽視◆人事が示すトランプ氏の狙い◇笹川平和財団上席フェロー 渡部恒雄
司法・情報機関を掌握の先に…
これらの人事に込めたトランプ氏の意図は明確だ。司法とインテリジェンス機関のトップを身内で固めることにより、将来にわたって自身や関係者への訴追を極力減らしていくことだ。 当然のことながら、司法省やFBI、CIAなどに在籍しているキャリアの官僚たちと、大きな軋轢(あつれき)が生じるはずだ。だからこそ、すべての関係機関のトップに、トランプ氏への忠誠を憲法や法律よりも優先する人物を配置して、これらの機関をコントロールしようと考えているのだろう。 人事からは、トランプ氏が78歳の高齢にもかかわらず、大統領選に再度立候補した思惑も透けて見える。仮にトランプ氏が今回の大統領選で勝利していなければ、多くの刑事訴追と民事訴訟を抱え、運よく収監を逃れたとしても、巨額の裁判費用を負担しなければならない状況に陥ったからだ。
法体系は液状化へ、日本も覚悟を
事実、トランプ氏が次期大統領に選ばれたことで、ニューヨーク州の裁判所は、トランプ氏が有罪評決を受けた不倫口止め料を巡る裁判で、量刑言い渡しの無期延期を決定。さらに起訴や有罪評決を取り下げるかも審理する。これまで機密文書の不正保管など2件の刑事事件を捜査してきたスミス特別検察官は起訴の取り下げを連邦裁判所に申し立てた。 理論上はトランプ氏が大統領職から降りれば、再度、起訴される可能性もある。だからこそ、トランプ氏は司法・情報分野のトップを、法律よりも自身への忠誠心を優先する人物で固め、既存の法体系を壊そうとしているのだろう。 法律を軽視してきたトランプ氏を支持するような人物に、法律の順守を期待することはできない。しかし、議会がこれらの人事をすべて否定するのは難しいだろう。今後、米国の法体系は液状化が始まり、国際的な法の支配も弱まることを、日本も覚悟しておく必要があるだろう。