日本人の「カキ離れ」が進行中…それでも広島の48歳起業家が「カキ養殖は成長産業」と断言するワケ
■官民ファンドが1500万円を出資した理由 6次産業化とは、第1次産業のビジネスモデル改革のことだ。農林漁業者(1次産業)が生産に加えて加工(2次産業)と販売・サービス(3次産業)まで行うことで、付加価値を高める意味合いを持つ。 三つの事業が掛け合わされると、「1(1次産業)×2(2次産業)×3(3次産業)=6(6次産業)」となる。ここから「6次産業」という言葉が生まれた。 ちなみに、瀬戸内は「6次産業発祥の地」である。広島県の世羅高原を舞台にして1999年に「世羅高原6次産業ネットワーク」が発足し、生産のみだった地場産業に加工や販売、レストランも加わって好循環が生まれた。 もともとファームスズキは6次産業化と深く関わってきた。2015年の設立時に6次産業化推進を担う政府系ファンドから出資を受けていたのだ。 資本金3000万円のうち、農林水産省所管のファンド「A-FIVE(農林漁業成長産業化支援機構)」が1500万円、ケーエス商会が残りの1500万円を拠出している(ケーエス商会は冷凍カキの輸出業者で、鈴木が2008年に事業パートナーと共同で設立)。 ■なぜ地元でもない広島の離島なのか ファームスズキ社長は漁師の家族に生まれたわけでもないし、カキ養殖日本一の広島で育ったわけでもない。東京生まれの埼玉育ちで、Jリーグ「浦和レッズ」の熱烈なファンである。大学卒業後は商社マンとして海外を飛び回っていた。 では、なぜ広島でカキ養殖を手掛けているのか? 根っからの起業家であるからだ。自分の事業プランを実現するうえで最適の場所を探していたら、大崎上島に行き着いたのだ。 起業家コミュニティーからも一目置かれている。2021年に世界的な起業家ネットワーク「EO(起業家機構)」の瀬戸内支部が発足した際には、大崎上島で視察団の訪問を受けている。 小さな離島に拠点を置きながらどのようにしてカキ養殖業で成長をつかめるのか。 若いころから世界を見てきた元商社マンにしてみれば答えは自明だった。日本で生産して海外で売るのである。 そのための戦略商品がクレールオイスターだ。生食用の殻付きカキであり、一口でツルっと食べられる小粒の品種。日本で好まれる大粒のむき身とは全然違う。 ファームスズキは世界で勝負するため、生産性をアップして競争力を高めないといけないと考えている。次回で詳しく報告する。(文中敬称略) (中編に続く) ---------- 牧野 洋(まきの・よう) ジャーナリスト兼翻訳家 慶應義塾大学経済学部卒業、米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクール修了。1983年、日本経済新聞社入社。ニューヨーク特派員や編集委員を歴任し、2007年に独立。早稲田大学大学院ジャーナリズムスクール非常勤講師。著書に『福岡はすごい』(イースト新書)、『官報複合体』(河出文庫)、訳書に『トラブルメーカーズ(TROUBLE MAKERS)』(レスリー・バーリン著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『マインドハッキング』(クリストファー・ワイリー著、新潮社)などがある。 ----------
ジャーナリスト兼翻訳家 牧野 洋