『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督も嫉妬する台湾映画の鬼才ギデンズ・コーとは
ギデンズ・コーの「切ない」創作術
山崎が「どうして監督の映画は人の気持ちをこんなに切なくさせるのでしょう?」と問うと、コーは「こんなにシリアスな質問が来るとは思わなかった」と笑った。 コー 僕自身、昔好きだった子の結婚式に行き、『あの頃、君を追いかけた』のラストとよく似たシチュエーションになったことがあります。僕は勇気を出して行動に移すことはできませんでしたが、そのときにこの映画を撮ろうと思いました。当時の僕が思いを伝えられなかったのは、彼女の身長が僕より3センチ高かったから。その3センチをどう補えばいいのか、誰かとケンカをして強い自分を証明できたらいいのかと、コンプレックスに思い悩んで告白できなかったんです。しかし、彼女の新郎は僕とよく似た身長だった。そこで「身長差は問題じゃなかったんだ」とようやく気づいた……この話の一番切ないところです(笑)。 コーが実体験を映画に生かしたのは『あの頃、君を追いかけた』だけではない。『怪怪怪怪物!』(17)では私生活のスキャンダルが、『赤い糸 輪廻のひみつ』では長年ともに生活してきた愛犬との別れが、それぞれ創作の大きなきっかけになったというのだ。
『赤い糸 輪廻のひみつ』で描きたかったこと
『赤い糸 輪廻のひみつ』は、現世と冥界を舞台に、落雷事故で死亡した主人公・シャオルンの過去と現在を並行しながら描くファンタジー・ラブストーリー。縁結びの神様、月下老人(月老)となったシャオルンは転生を目指し、生前の記憶を失ったまま相棒の少女・ピンキーと現世の人々の縁を結んでゆく。しかし、一頭の犬と再会したことで、初恋の人・シャオミーへの思いと、ついに果たされなかった約束を思い出して……。 日本公開後、山崎が「ギデンズ・コーにまたしてもやられた」とコメントを寄せた本作は、『あの頃、君を追いかけた』の青春ラブストーリーに、台湾の伝承にもとづくファンタジーやホラーの要素をプラスし、さらに独特のひねりを加えた一本。こちらも原作はコー自身の小説だが、映画化にあたって設定を大きく変更した。 コー シャオルンが死んだ原因は、小説では地震でしたが、映画では落雷にしました。現実の地震で多くの方が亡くなっている以上、観客のトラウマを刺激しかねないと思いましたし、その設定では『死後に女の子と再会する』という以上に劇的な展開を描かねばならないのではないかと考え、物語の核心をきちんと伝えるために変更したんです。最も難しかったのは、『死は怖いことじゃない』というメッセージを映画に注ぎ込むことでした。