滝沢カレンさん「郵便配達は二度ベルを鳴らす」新バージョンを執筆 不倫カップルを襲った恐怖のストーリーに
古今東西の名作のタイトルをヒントに、滝沢カレンさんに自由に物語を紡いでもらう連載。55回目は「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(1934年)。原作はジェームス・M・ケインのノワール小説。これまで4回、映画化されている古典的人気作品です。 【写真】滝沢カレンさんインタビューカットはこちら
ここは、アメリカ・カルフォルニア。 1年通してほがらかな風が向き、気温も人間の肌を心地よい空間にしていく場所だ。 ここにいれば、誰もが幸せで穏やかな生活が送れそうな場所だが...。 こんな穏やかな場所である事件は起きる。 時は少し遡り、いまから半年前の今日。 カリフォルニアを旅する青年フランクがいた。 旅と言ったら聞こえはいいが、 フランクは大学でも楽しみが見つけられず、 親に黙って中退したことがバレ、家を出ていけと言われてしまった、いわば家出青年だ。 目的地もなければ、今この地を歩く理由すらないフランク。 「クゥゥウ~」 こんな時でも腹は空く。 フランクは胃をさすりながら、何か食べてからまた考えよう、と頭の中で考えた。 すぐ何か食べたいところだったが、 この道は、カリフォルニアならではのだだっ広さを生かした道だったため店どころか、人工建造物すらない。 ただひたすら、柔らかい眠くなるような風に吹かれながら歩くしかない。 45分くらい歩き続けると、 そこには一軒の料理屋があった。 突如現れた割には、清潔感とおしゃれさを兼ね備えており、こんな人気のない立地に構えているのが不自然な程だ。 白い建物に青字で、 「ギリシャ料理」と書かれている。 「ギリシャ料理か。食べたことないな。でもここを逃したらいつ食べられるかわかったもんじゃない。よし入ろう!」 フランクは迷うことなく、このおしゃれ感漂うギリシャ料理屋に入った。 ♪チリンチリーン ドアと共に、客を知らせるベルが働く。 すると奥から、 「いらっしゃい。どうぞ、好きな席に。」 と、優しい低い声をした、毛深めの男性店員が出てきた。 店内も、ギリシャを意識しているのか白い壁に青い小道具で店内を賑やかしている。 客は2~3組いた。 どうやら、わざわざここまで食べに来る客もいる気配だ。 フランクは、カウンターの席に座った。 カウンターからは、厨房がよく見える。 「はい、こちらがメニューね。君あまり見かけない顔だね?どこから?」 毛深めのダンディが尋ねてきた。 「サンディエゴの方から。。」 「え?サンディエゴから?!?そりゃ随分な長旅だったな。ゆっくりしていってね。」 毛深めダンディは、それ以上聞いてはこなかった。 場所が場所なだけに、ただごとではないことを察したのか。 静かにメニューだけをおいていく。 フランクはそこで食事を済ませると、 毛深めダンディの人柄に惹かれて、意を決して頼み事をした。 「ここで、僕を働かせてくれませんか。」 毛深めダンディは、優しい優しい低重音で 「いいよ。」とだけ言って、微笑んだ。 フランクは頭を深く下げ、さっそく自分の食べた食器を洗い始める。 「君、名前は?僕の名前はパダキスだ。よろしくな。」 「僕はフランク。22歳です。よろしくお願いします。」 「フランクか。いい名前だ。この店には僕と僕の妻も働いている。今日は町に出て買い出しをしているから、夜には戻ると思うよ。今夜は君の歓迎パーティをしなくちゃね。」 パダキスはフランクをすっかり気に入った。 その夜。 外は大雨がカルフォルニアを襲っていた。 ♪チリンチリーン ドアのベルが鳴ると、全身びしょ濡れになった女性が入ってきた。 「あぁ、おかえり。コーラ。大丈夫か?!びしょ濡れじゃないか、ほらタオルを」 パダキスは急いでタオルで妻のコーラを包んだ。 「ありがとう、パダキス。雨凄いわ。あぁおかげでびしょびしょ。」 そう言って買い出しをした荷物をテーブルに広げる。 フランクはそんな物音に気付き、厨房から出てきた。 そこには、フラつきを見せてしまうほどに、美しい女性コーラがフランクの目に飛び込んできた。 「あぁ、フランク。紹介するね。妻のコーラだ。コーラ、今日から働くことになったフランクだよ。住み込みで働いてくれるんだ。」 パダキスは、フランクとコーラにそれぞれ身分を紹介した。 「あぁ、そうなの。よろしくね、フランク。コーラよ。」 そういうとコーラは優しい握手をしてくれた。 固まるフランクも、 「よろしくお願いします。フランクです。」 と、どうにか自然を装いながら握手を交わした。 その夜はパダキスが言った通り、 フランクの歓迎会を夫婦がしてくれた。 コーラが作った、ラザニアやサラダは特級においしくて、パダキスも酒が回るとコーラとの惚気話に拍車がかかった。 コーラがどれほど、美しく優しく素晴らしい女性かがフランクは聞けば聞くほど恋に落ちていったのだ。 時計は深夜1時を指していた。 大雨は小雨に変わり、この店の光だけが灯っている世界。 パダキスはお酒を浴びるように飲み、泥酔してしまいテーブルで大きな合唱いびきをかきながら眠ってしまった。 それを横目にフランクとコーラは後片付けをし始めた。 「パダキス、久しぶりにこんなにものすごく飲んでいたからきっと楽しかったんだね。」 「ははは。よかった。ところでコーラはパダキスとどこで出会ったの?」 「パダキスとはギリシャを旅行中に出会ったの。 それから早かったよ。すぐに付き合うことになって、すぐに私はギリシャに住むことになったの。それで、私がどうしても故郷のカリフォルニアで住みたかったから、パダキスがこっちで仕事をしてくれることになったの。」 コーラはお皿を拭きながら、思い出を話した。 「そうなんだね。僕もコーラともっと早く出会っていたかったよ」 「え?」 フランクはお酒の勢いもあり、 つい言葉が止まらずに進み出してしまった。 フランクは完全に、美しく優しいコーラに一目惚れをしてしまったのだ。 そうして、出会った日に禁断の恋が始まった。 フランクの若くて美しく潤った肌、整った顔立ちに、スラリと伸びた身長やまっすぐピュアな精神にまたコーラも惹かれていく。 フランクは、パダキスの元で働きながらも、 誰にも言えない恋を大切に着実に育んでいた。 そんな捻り曲がった関係を半年続けていたある日コーラは、フランクに不安を話した。 「パダキスが気付くのも時間の問題な気がするの。でも私はフランクが好き。どうしよう。パダキスがこれに気付いたら、絶対あなたを殺すわ。。」 フランクは震えながら不安を声にするコーラを抱きしめた。 「確かにそうだね。こんな近い距離でこの関係は危険すぎる。でも、、、、殺されるくらいなら、事故と見せかけて殺してしまおうか。」 フランクは身の毛もよだつ発案をした。 コーラも目を丸くして驚いていたが、もう2人にはこの策しかないと思ったのか、2人はパダキスを殺害する計画を立てていく。 思い立ったらすぐ行動のフランクは、 2日後、計画を実行に移した。 フランクは、パダキスが外出する日、 お昼ご飯に作ったスープに大量の睡眠薬を粉にして混ぜた。 そしてパダキスは予定通り車に乗り隣町まで行く途中に、猛烈な睡魔に襲われ、そのまま道を外れて崖から落ちたのだった。 フランクとコーラの作成は、初犯とは思えぬ計画ぶりだった。 だが、警察に事件死だと思われてしまったら一貫の終わりだ。 そのためにも事故死としなければならない壁がある。 早速、コーラとフランクの元に警察はやってきた。 「カリフォルニア警察のバーグンです。今日お昼ごろ、パダキスさんが運転中にハンドル操作を誤り、崖下に転落して即死が確認されました。 ご主人はどこに向かわれていたか分かりますか?」 警察官は涙いっぱいのコーラに質問した。 「今日は隣町へ買い出しをすると言って出掛けていきました。まさか、、こんなことになるなんて・・・」 と、コーラは自作自演たっぷりに泣いてみせた。 全ては、フランクとの愛を守るために。 「残念です。。あの道は普段からよく事故が起こるんです。動物なんかも急に出てくるので。 ご主人は何かを避けようとして落ちてしまったのかもしれませんね。。しっかり捜査は続けますので、お待ちください。」 たくましい頼り甲斐のありそうな警察官は、 名刺を置いて去っていった。 その後、捜査の結果パダキスは"事件性なし"とされ司法解剖はされずに、事故死として遺体は警察署に送られて、家族との対面となった。 パダキスに面会に行った2人は言葉を失った。 かなり高い場所からの落下ということもあり、 身体は原型を留めていなかった。足はありえない方向に曲がり、腰骨は粉砕しており、顔は潰れているため、パダキスか認識すらできなくなっていた。 車から見つかった、身分証でようやくパダキスであることを認識できる程度だ。 フランクとコーラは、なんて残酷で惨いことをしてしまったんだと腹の底から涙が止まらなかった。 そして帰宅し、改めてこれからの2人について話した。 「とりあえずパダキスの件は、事故死となったしもう捜査も打ち切りになったから、コーラ安心してね。確かに、ショックは大きいけど、これからは何も心配も不安もなく2人で生きていけるよ!」 「そうだね。フランク全てを実行してくれて、ありがとう。パダキスのことを気にしていたら前に進めないしね。2人でこれからは幸せに暮らしていきましょう。」 そうして、2人はその日熱い愛を誓った。 それからも、すぐにギリシャ料理屋を畳むのは怪しまれると思い、しばらくはギリシャ料理屋を続けながら、2階の部屋で暮らす今まで通りの生活を送った。 フランクとコーラはお金を貯めてロサンゼルスの方に住むために、頑張ってギリシャ料理屋で働いていた。 そんなある日の夜。 2人が寝静まった、深夜2時ごろ。 ギリシャ料理屋のドアについた呼び鈴が鳴った。 ♪チリンチリーン 「え?」 フランクはハッと起き上がる。 戸締りをしていたはずだし、扉は開くはずない。 コーラはその横で眠っている。 フランクはそっと一階を見に行く。 でも扉は変わらず閉まっている。 そして誰か入ってきたような気配すらない。 夢の中で聞こえたのかと、フランクはあまりきにとめずその夜はまた眠りについた。 朝、仕込みの準備をするためにフランクが一階に降りると、目を疑う光景が広がった。 それは、窓一面に人が爪で引っ掻いたような大掛かりな傷が無数につけられていた。 気味が悪くなったフランクは、急いでコーラを起こしてその窓をみせた。 「何これ。嫌がらせかなんか?」 コーラも不気味なこの光景を不安に感じた。 フランクは昨日、扉が開いた呼び鈴がなったこととなんか意味があるのか考えたが、コーラに言って不安にさせるのも嫌だったので言わないでいた。 それからも1週間に1度ほど呼び鈴が鳴ることは起きたが、コーラが全く聞こえていないことと、被害がなかったことでフランクは夢で聞こえているだけだと特に気に留めずに、2人は変わりなく働いていた。 窓についた爪の引っ掻き傷も動物かなんかの仕業だろうと、いつしか2人の中で話題にも上がらなくなった。 それからだいぶ月日は流れ、 パダキスの事件から一年が経とうとした日。 その日も、朝から2人はギリシャ料理屋の仕込みをはじめ、11時にお店を開店させた。 14時頃までは変わらない客足で、3~4組が入れ替わりで入ってきていた。 15時過ぎると、客足は引き暗くなるまでこの日は客は来なかった。 「雲行きも怪しくなってきたな。今日は締めるか?」 そうフランクが空模様を見ながら話すと、コーラも、 「そうね。ひと嵐きそうだしね」と2人はこの日閉店の20時より早く切り上げることにした。 片付けを徐々にしている時。 扉の呼び鈴が鳴り響いた。 「はーい、いらっしゃい!」とフランクが厨房から店先にでると、 そこには大柄の見慣れない郵便局の配達員が入ってきた。 「あ、郵便ですか?」 フランクが聞くと、「はい」と少し暗めに返事をした。 「もらいますよ」 とフランクが手を差し伸べると、、 そのフランクの手首を見るなり、グッと掴むとその配達員は自分の元に引き寄せた。 「よくも、あんなぐちゃぐちゃにしてくれたね・・・」 と、フランクの耳元で呟いた。 フランクはその瞬間足の裏から全身に鳥肌が立った。 すぐにこの大きな男がパダキスだと気付いた。 そのまま郵便配達の姿になったパダキスは続けた。 「さぞかし、幸せそうだな。」 声はガラガラで喉仏がぐっちゃぐちゃに潰れたような声質をしている。 フランクは足が震えて、声も出せない。そして動くことすらできない。 そして、コーラが奥から、 「お客さん?」 と出てきたとき、郵便配達はゆっくりとコーラを見つめて、何も言わずに店から出ていった。 「なんか見慣れない配達員ね。」 コーラがフランクに話しかけると、 フランクは収まっていた涙が噴き出すほど出てきた。 「フランク?どうしたの、、!?」 コーラは涙の吹き出し方に驚き、震えるフランクを抱きしめた。 「いまの・・・間違いなく・・パダキスだった」 震える声を振り絞るフランクに、コーラも体が固まった。 「え?・・・何を言ってるの?」 「今日でちょうどパダキスの事件があってから1年だ。きっと彼は人に憑依して僕らの元にやってきたんだ。。」 「そんな・・・私たちどうしたら・・・」 その時フランクは、深夜に鳴るベルや、爪で引っ掻いた窓ガラスの傷全ては、憑依したパダキスの呪いだと気付いた。 2人だけまんまと幸せになろうなんて、 パダキスは願うわけがないことにフランクは気付いていく。 「コーラ、僕、警察に行って自首するよ。これじゃあいつまでたってもパダキスに怯えながら生活することになってしまう。こんなの望んでいた形ではないからね。」 「フランク・・・。私も一緒にいく。作戦を立てたのは私だって共犯よ。一緒に自首して、また出所したら一緒に新しい生活を送りましょう」 2人はパダキスの怨念を怖がり、 事件から1年後の今日、自首をした。 ちょうどこの時期のカルフォルニア州は犯罪者教科月間が開催されており、 "コーラの出所後また2人で"という願いは虚しく、 コーラは懲役65年 フランクには死刑が確定した。 結局フランクはパダキスのいる場所送りになってしまった。 自首から3ヶ月という異例な速さでの 死刑執行となる。 深い愛が狂わせた三角関係はここで幕を下ろした。 終。