企業で不祥事発覚!!……でも中の人は悪いと感じてない?
會澤 綾子(明治大学 商学部 専任講師) 2023年の春、ダイハツ工業で、車の認証試験に関わる不正行為が行われていたことが発覚しました。トヨタのグループ会社ということもあり、国内外の多くのメディアで取り上げられましたが、こうした製造業での問題は、近年、続々と明るみになっており、なかには数十年にわたって不正が温存されていたケースもあります。なぜ、組織で不正行為が長期化するのか。そのメカニズムを解説します。 ◇「当たり前」になっていた不正行為 会社組織で起こる社会的な事件、いわゆる「企業不祥事」が日々ニュースを賑わせています。 ただし、一口に企業不祥事といっても、多様なものが混在しています。横領・背任などの個人的行為に企業が巻き込まれる場合もあれば、談合や産地偽装(表示不正)といった組織的なものまで様々ですが、いずれにしても、不祥事とは、法律や社会通念といった規範から逸脱する行為が行われ、それが公になったものであると言えるでしょう。 比較的大きな組織が主体となった不正行為が発覚すると、記者会見が開かれ、経営者が事情を説明してメディアの追及に対応します。そこでは、とりわけ経営陣や従業員に倫理的な意識が欠如していたのではないかという点が問われるように思います。 しかしながら、善悪二元論的に考えて、あらゆる不正行為の背景を説明できるかというと、実はそれほど単純ではありません。 組織が主体の不祥事の場合、当事者ではない私たちからは、問題の行為が社会からどれだけズレてしまっているかよくわかります。ですが、組織の中の人たちから見ると、そもそも行為自体を「悪いこと」だと思っていなかった、という場合がしばしばあります。 つまり、誤った行為が組織の中では「当たり前」であったがゆえに集団で不正行為に手を染めていたケースです。 昨今、企業現場では企業統治や企業倫理に関わる様々な指針・制度が普及していますが、ただ整備すれば十分というわけではなく、当事者が規範逸脱を認識しづらいケースでの有効性も考えなければならないでしょう。 1人または数人でひっそりと行う隠密的な不正ではなく、組織内で広く知られ認められた、いわば慣習的に行われる不正行為の場合、当人たちは組織のルールに従って行動しているため、単なる逸脱行為とは言えません。ゆえに、行為者に規範的であるよう求めるコンプライアンス制度の導入だけでは、不正の防止に働かないと考えられます。 こうしたタイプの企業不祥事は、製品出荷前の工程の一部を省略したり、規定の製造・検査方法とは違う方法や手順を用いるといった不正でよく見られます。 日本の製造業における不正問題は、2010年代後半から多発しており、たとえば、2016年の三菱自動車などの燃費不正、2017年の神戸製鋼での検査不正、2020年の三菱電機の検査不正、2022年のジェネリック医薬品メーカーの製造手続きにおける不正など、毎年のように明るみになっています。2023年春にも、トヨタ傘下のダイハツ工業で車の側面衝突試験に関する不正が行われていたことが発覚したばかりです。