企業で不祥事発覚!!……でも中の人は悪いと感じてない?
◇不正行為が組織で常態化するメカニズム 例にあげた不正行為のうちのいくつかは、正確には、昔から眠っていた問題が最近になって掘り起こされたと言うべきでしょう。問題を深く探っていくと、不正の開始は10年以上前、ものによっては30年近く前で、担当部門の当事者たちが「いつから不正が始まったのかわからない」と話すケースも珍しくありません。 一例をあげると、2016年に発覚した三菱自動車の燃費不正問題では、自社製の自動車の燃費性能に関する実験において、国が法規で定めた方法(X)とは異なる方法(Y)で計測していました。社内においてXを用いずに測定するという行為自体は、遅くとも1990年代には始まっていたとされます。 特別調査委員会資料などによると、実は、問題が露見する前に、社内において複数回、不正行為を発見する機会があったようです。具体的には、Yによる測定に疑問を持っていた当時の開発部門の担当グループ長が、2000年ごろにXとYでの走行抵抗の差を検証する実験を部下に命じていたほか、その数年後には、当時新人だった別の人物が上長の提案のもと、法規に従ってXを用いるべきである旨の提言を「新人提言書発表会」にて行っていたとされます。 しかし、これらの後も、開発部門では非公式であるYの方法が継続され、不正行為が改善されるまでには至りませんでした。このことは世間の批判を浴びた点でもあります。 一方で、特別調査委員会資料からは、社内で上がった声は無視されたわけではなく、XとYの方法の違いによる差が少なかった(完成車抜き取り検査でも生じうる誤差程度)ことなどから「問題はない」と判断され、それがゆえに長年にわたり、あえて放置され続けたという経緯も見えてとれます。 なぜ、組織の中で、決して良いとはされないはずの行為が、数十年にもわたって保持されてしまうのでしょうか。 ひとつの原因として、組織の中で不正行為が一度ルーチン化してしまうと、それを止めることが難しくなるという構造があげられます。 良くも悪くも、仕事は固定化されるものです。特に意識しなくとも、日々の通勤や通学の道のりを体が覚えているように、仕事でも、繰り返される行為については考える要素が少なくなっていきます。組織ルーチンと言いますが、これによって効率的に業務を行うことを可能にしているのです。 しかし、組織内で誤った問題解決行動のパターンが繰り返されると、それが組織に認められた正しい行為だと思い始めます。とくに製造業での検査業務は、反復的かつ長期的に行われる特徴があり、企業にとって重要な意味を持つ過去の結果も引き継ぎますから、余計に不正な行為がルーチン化しやすい状況にあると考えられます。 不正行為が繰り返されると、その行為は組織のルールとして定着し、社会一般の規範よりも優先されることになって、固定化してまた繰り返されるというループに入ります。組織内に限って認められる(しかし社会規範からは外れた)ルールが、どんどん動かし難くなっていくのです。 もっとも、不正行為がルーチン化しても、誰ひとりとしておかしいと思わなかったということは少なく、途中で発見する機会が訪れることがあります。新卒や中途入社など、組織においてまだ社会化されていない人や、協力関係にある外部企業の人、企業内でも牽制機能が与えられている組織などは、新鮮な目で組織を見る力があります。 ですが、不祥事として問題が大きくなってしまった企業は、その力を生かし切れていないように思います。たとえば、新しい人が思い切って発言したことが全く取り合ってもらえなかったら、さらに意見を言って会社を良くしようとは思わないでしょう。