フランス語を話せない柴咲コウがフランス語での映画主演を決断した理由
知っていた単語は「メルシー」「シルブプレ」くらい
全編通して、フランス語のセリフがほとんどを占める本作。柴咲さんはどのようにして、この未知の言語を体に沁み込ませていったのだろう? 「今回レッスンを受けるまで、私のフランス語の素養はゼロ。知っていた単語といえば、『メルシー』『シルブプレ』くらいでした。勉強を始めたのは撮影に入る半年前で、1日2時間のレッスンを週3回。他の作品もあったため、それが限界だったのです。あとは発音の基礎的なものを録音し、移動中を含めひたすら聞いていました。 でも、やっぱり圧倒的に時間が足りないんですよね。『これじゃ間に合わない! 』とジリジリ追い詰められて、『あと3カ月しかない』という時点でまたちょっと特訓して、最後の1カ月は実際にパリに住んで現地でレッスンを受けていました。クランクインが確か4月20日頃で、フランス入りしたのはその1カ月前です。 パリではアパート暮らしでした。日本で暮らすのと同じように、近所のスーパーに食材を買いに行って、自炊して、掃除して、お風呂に入って。フランス語のセリフを覚えることに特化していたので、隙あらばセリフの勉強をしていました。 テレビでも観て息抜きしようと思っても、当然すべてフランス語。意味がわからないながらも部屋ではずーっとフランス語のニュースをつけていましたね。とにかく耳に入ってくる言葉が全部フランス語だったので、日本にいる時とは大きな違いがあったように思います。10年以上住んでいる設定の小夜子には遠く及びませんが、できるだけ近づけるために頑張りました」
セリフを自分のものにするために脳みそを騙した
フランス語の発音は長くフランスに住んでいる人にとっても難しいという。そのセリフをすべて暗記するだけでは演じることができない。いったいどのように「フランス語で演じた」のだろうか。 「ある程度フランス語のレッスンが進んだ時点で本読みの場を設けていただいたのですが、その際、フランスの共演者やスタッフの皆さんと顔合わせをしながら『台本を読んでみよう』『アクションもちょっとやってみよう』という流れになりました。 その時『私のフランス語、どうかなあ? 』と皆さんの顔色をうかがっていたら、口をちょっとヘの字にして肩をひょいっとすくめる仕草をされたんですね。それを見て『まあまあだね。そんなに悪くないじゃん? 』という意味の反応なのかなと思っていたら、『いやいや、全然話せないって言ってたのにめちゃくちゃ大丈夫じゃん! 』と言われて。結構安心してくれていたみたいでホッとしました(笑)。 実際に演じる際は、『今わたしはこれを言っている』といちいち頭で日本語に変換しないようにしていました。セリフを自分のものにするために脳みそを騙すと言いますか、もう丸暗記してパッケージとして覚えながら演じたので。 なので正直に言いますと、今もフランスで生活できるほどの語学力はついていないのです。私の場合、あくまでも今回の映画のために身に着けたフランス語なので、アレンジが効かないんですよね。アレンジができたらフランスで暮らせるんでしょうけど……。『ここの主語を入れ替えて、こういうことを言ってみて』とか『これを翻訳して』と言われても、残念ながら無理です(笑)」