映像作家・空音央が初の長編劇映画「HAPPYEND」で見せたこだわりの演出術
空:そうですね。マイズナー・メソッドでは自分自身を出す練習をしてもらうので、撮影に入る前に5人の関係性を築くというのがすごく大事でした。最初、彼らは緊張していたみたいですが、ワークショップをやっていくうちに何年も前からの友達みたいに関係性が深まっていった。ワークショップの後に、こちらが何も言わないのに一緒にご飯を食べにいったりして、すっかり仲良くなったんです。だから、撮影の初日から打ち解けていましたね。選んだ5人の相性が良かったのはラッキーでした。
――撮影に関して伺いたいのですが、「Ryuichi Sakamoto | Opus」でも撮影を担当していたカメラマンのビル・キルスタイン(Bill Kirstein)さんとは長い付き合いですね。本作の撮影にあたって、どんな話をされたのでしょう。
空:ビルとの間で共有していたのは、「映画を観終わったら、しばらく話してない友達に電話したくなるような気持ちになる作品にしよう」ということでした。そういう作品にするために、このシーンをどう見せるか。最初にシーンの核みたいなものを2人で考えて、それをショットに分解していきました。そして、カメラのポジションが大体決まったら、あとはほとんどビルに任せていましたね。そんな風に任せられるのは、彼とセンスやテイストが共有できているからなんです。好きな映画もよく似ているし。
――「Ryuichi Sakamoto | Opus」を観て、抑制されたカメラワークでありながらも感情が伝わってくる映像だと思いました。
空:ビルはとても詩的なことを考える人なんです。「Ryuichi Sakamoto | Opus」ではドリー(移動しながら撮影すること)を多用したんですけど、ビルに「どういう特機部(撮影用の特殊機械を操作するスタッフ)がいいの?」って聞いたら、「音楽を聴いて泣ける人」って言うんです。今回、『HAPPYEND』でお願いした特機部の方は「PERFECT DAYS」にも参加された感情を深く理解される人で、カメラの動きにも画にも感情が乗ったんです。