映像作家・空音央が初の長編劇映画「HAPPYEND」で見せたこだわりの演出術
空:この映画で一番大切なのがキャスティングでした。これまで短編を撮ってきて、「自分の直感は当たるし大事だ」ということが分かったんです。だから、キャスティングは直感を大事にしました。オーディションで参加者が部屋に入って来た時、「多分、この人になるだろうな」と直感したことが、今回の主要キャストに関しては必ずあったんです。それで実際に演技をしてもらうと、みんなうまいし変なクセもついてない。そして、それぞれに話を聞くと、演じてもらった役にすごく近い背景や感性を持っているんです。それには驚きましたね。
――直感はもともと大切にする方ですか?
空:何に対してかにもよりますが、作品に関する決断は直感を大事にするようにしています。というのも以前、「いい感じなんだけど、どこか違和感あるな」と感じた時って、必ずその違和感が後々問題になったんです。
――今回のキャスティングに関しても直感が当たったんですね。役者に対するディレクションは細かくする方ですか?
空:撮影や編集など技術的なことはこれまでやって来たので大体分かるんですけど、演技の演出は経験不足だと思っていたので、いろんな方に相談しました。その1人が濱口竜介さん。濱口さんは「ハッピーアワー」で演技未経験の役者に演出をしているので、本作のことを話してアドバイスをしていただきました。その後も、いろんな方から話を伺った中で注目したのがマイズナー・メソッドという、サンフォード・マイズナー(Sanford Meisner)という演技の先生の演出法です。マイズナー・メソッドで大事なのは、想像上の設定の中でいかに自分らしくいられるか。演技をする時、共演者から投げかけられる感情に対して、感情を作らずに素直な自分を出す練習をするんです。マイズナー・メソッドを演出の指針にして、俳優たちにもそうするように伝えました。
――5人の自然な演技が良かったです。5人が一緒にいる時の親密な空気感も嘘がなくて、そこは本作の要ですね。