映像作家・空音央が初の長編劇映画「HAPPYEND」で見せたこだわりの演出術
――コウが政治に興味を持ったことで、大好きな音楽のことだけ考えていたいユウタとの友情に亀裂が入っていく、という物語は、監督自身が経験したことだったんですね。物語の舞台を近未来にしたのはどうしてですか?
空:関東大震災で起こった朝鮮人虐殺のことを調べたことがあったんです。なぜ、日本でこんなことが起きたんだろう?と思って。そしたら、調べていた時期に日本で大きなヘイトスピーチのデモがあったんですよ。それを知って、今でも差別が日本の社会に根強く残っていることを知りました。最近、南海トラフ地震が必ずくる、と言われているじゃないですか。そうなると、また朝鮮人虐殺のようなことが起こる可能性は大きいんじゃないかと思って、近未来の日本のことを想像するようになったんです。
――パンデミックのマスク不足や最近の米騒動など、いまだに人々の不安がパニックを生み出していますね。
空:人は目に見えない恐怖にあおられやすいんでしょうね。あと、経済が悪くなると自分の身の回りのことしか考えなくなってしまって、人間の本性――とは言いたくはないですけど、負の部分があぶり出されることになるんじゃないでしょうか。
――映画ではたびたび、地震が起こります。地震は「目に見えない恐怖」のメタファーなのでしょうか。
空:未来に対する不安や恐怖。友情の決裂。社会構造の崩壊。そういったさまざまなことのメタファーであると同時に、実際に起こる自然現象として描いています。地震で被害に遭われた方もいるので、単なるメタファーにはしたくないんですよ。それに僕は日本に来ている時に地震が起こると怖いんです。ニューヨークではほとんど地震が起きないので、震度1のレベルでみんな大騒ぎですから。
キャスティングと演出
――地震は日本人が抱えている潜在的な恐怖とも言えるかもしれませんね。今回、主要キャスト5人のうち4人がスクリーンデビューということもあって新鮮な顔ぶれでした。キャスティングで心掛けたことはありますか?