袴田さん無罪判決、公示へ 新聞に「全文掲載を」 支援者ら伝わりづらさ懸念、再審法改正も要望
現在の静岡市清水区で1966年に一家4人が殺害された事件を巡り、袴田巌さん(88)を無罪とした静岡地裁の再審判決が今後、新聞に公示される。袴田さんの名誉回復が目的で、再審法(刑事訴訟法の再審規定)に基づく。ただ、判決の全文ではなく要旨のみの掲載を可能とする最高裁の通達がある。支援者はインパクトに欠けるとして全文掲載を求め、再審に詳しい法学者は「無罪の言い渡しを受けた者の意向を尊重するような方法と内容で公示されるべき」と指摘する。 再審法によると、裁判所は再審で無罪を言い渡したとき、官報と新聞に判決を公示しなくてはならない。89年に静岡地裁の再審で無罪となった「島田事件」では、本紙を含めた複数紙の朝刊で公示が確認できた。 最高裁によると、公示の具体的な内容や、どの新聞にいつ掲載するかは「(各裁判所が)事件ごと個別に判断する」という。他方、最高裁は「名誉を回復するため不可欠とは認められない場合には、判決全文の掲載に代え、その要旨を掲載することができる」と通達し、参考例を示している。 実際、島田事件の公示は「再審の結果犯罪の証明がなかったので、無罪の言い渡しをした」と要旨のみ。縦6・5センチ、横2センチで、注意深く読まなければ気づかないようなサイズだった。 「要旨では司法の責任があいまい。名誉回復につながらない」。袴田さんや弁護団を長年支援してきた一人は、そう疑問視する。無罪判決は捜査機関による三つの証拠捏造(ねつぞう)を認定したが、要旨だけでは載らない可能性が高い。 再審法は大正時代の規定をほぼ引き継ぎ、戦後一度も改正されたことがない。袴田さんらの再審をきっかけに改正機運が高まる中、証拠開示の法制化や再審開始決定に対する検察官上訴の禁止が論点となる一方、無罪判決の公示は日本弁護士連合会の改正意見書でも「現行法通り」とされ、見落とされた項目と言える。 時代は変わり、インターネットが普及している。袴田さんの支援者は、仮に要旨のみを公示するならば、裁判所のウェブサイトに無罪判決の全文を掲載した上で「そのURLを公示に明記すべき」と要望。再審法にも同様の規定を盛り込むことが重要と考えている。 公示のあり方について、九州大の豊崎七絵教授(刑訴法)は「(現行法は)国家の義務として規定しているが、無罪の言い渡しを受けた者や再審を請求した者の権利として位置づけ直す必要がある」としている。
静岡新聞社