〈米退役軍人層の「トランプ離れ」〉1860万もの組織票を失うか?その背景と大統領選への微妙な影響
さらには、トランプ政権下で安全保障、軍事関係の重要ポストに就きながらその後、大統領とたもとを分かつことになった著名人としては、ホワイトハウス首席補佐官だったジョン・ケリー退役陸軍大将、国防長官を務めたマイク・エスパー退役陸軍中佐、大統領補佐官だったジョン・ボルトン氏らがおり、いずれも今回の大統領選でトランプ氏への「不支持」を表明している。 そして、その理由としてトランプ氏が(1)20年大統領選挙での敗北を認めず、民主主義政治を冒涜した、(2)熱狂的トランプ支持グループらによる米議会襲撃・占拠事件を支持してきた、(3)ロシアのプーチン大統領の言いなりになる一方、西側同盟諸国との関係を傷つけた、(4)米軍の尊厳にかかわる乱暴な言動を繰り返した――などの点を挙げている。
軍を軽視するトランプの言動
しかし、トランプ氏にとっての米軍との“負の因縁”は今に始まったわけではない。過去のよく知られたエピソードとして以下のようなものがある: ・1960年代のベトナム戦争当時、高校、大学時代通じトランプ氏のもとに合計5回にわたり徴兵カードが届いたが、そのつど軍当局宛に医者の診断書を提出、「健康・身体上の問題」を理由に忌避し続けた。しかし、後に大統領選に立候補した際に、ニューヨーク・タイムズ紙などが過去の経歴を洗い直したところ、半世紀前に書かれた診断書のうち、3回分には、徴兵に応じられない理由としてたんに「かかとにできた小さな突起物」の存在に言及してあったことが判明、米マスコミで大きな話題となった。 トランプ氏はその後、社会人となってからも、「戦争嫌い」の言動が目立った。 ・15年、大統領選出馬表明した際、ベトナム戦争で北ベトナム軍に撃墜され、ハノイの捕虜収容所で拷問を受けながらも、最後まで生き延び帰還したマケイン上院議員(当時)を「捕虜として身柄を拘束された人物は真の英雄に値しない」などと批判を繰り返したため、全米退役軍人協会などから猛烈な反発を招いた。 ・その一方で、17年大統領に就任してからは、戦争で活躍した軍司令官たちを羨望、礼賛する言動が目立ち、政権発足とともに、ジェームズ・マティス退役海兵隊大将を国防長官、H.R.マクマスター退役陸軍中将を大統領補佐官(国家安全保障担当)、ジョン・ケリー元陸軍大将を国土安全保障長官、その後にホワイトハウス首席補佐官に次々に登用した。しかし、任期途中で見解の相違などを理由に3人とも解任した後は、こうした軍人たちを「敗者」「馬鹿者たち」などと罵倒し続けた。 ・18年、大統領はアフガニスタン問題に関連し、現地政府の了解抜きにタリバン勢力との「和平交渉」名目で拘束中のタリバン兵士5000人以上を釈放させると同時に、唐突に「米軍撤退」計画を発表、その後の混乱を招いた。 ・18年、訪仏の際、パリ近郊にある「米軍戦没者墓地」を慰霊する計画が立てられていたが、当日、「雨天」のため突然中止となった。その後の関係者の証言で、大統領が自分のヘアスタイルが崩れることを嫌がったためだったことが暴露された。