大東駿介、主演舞台「What If If Only ― もしも もしせめて」に懸ける思い
Bunkamuraが海外の才能と出合い、新たな視点で挑む演劇シリーズとして、2016年秋からスタートした「DISCOVER WORLD THEATRE」。シリーズ第14弾となる今回は、現代イギリス演劇を代表する劇作家の1人、キャリル・チャーチルの2作品が世田谷パブリックシアターで上演される。そのうちの1作、2021年に上演されたチャーチルの最新作で日本初演となる「What If If Only―もしも もしせめて」で主人公・某氏を演じるのは大東駿介さん。本作に懸ける思いや、徹底した役作りについてお聞きしました。
初めて戯曲を読んだ時、感激のあまり本を胸に抱えました
──「What If If Only―もしも もしせめて」で、大東さんは愛する人を亡くした主人公・某氏を演じられます。某氏が「もしせめてあの時、ああしていたら」「あの時、ああしていなかったら」と1人で喪失感に打ちひしがれていると、目の前に未来(浅野和之)が現れて、物語が大きく展開していきますね。 「初めて戯曲を読んだ時、『こんな作品に出合えることがあるんやな』と感激のあまり本を胸に抱えたんですよ。今を生きる人たちの不安や悲しみ、痛みを映し出し、それでも前へ進んで行こうとする姿が、この短い戯曲に凝縮されています。それが見事に自分とも重なりましたし、今このタイミングで僕の手元にこの本が来たことを、すごく幸せに感じました」 ──約2週間前から稽古が始まったそうですが(※取材時)、戯曲をお読みになった第一印象から変化や新しい気付きはありましたか? 「たくさんあります。台本を頂いてから稽古が始まるまでに、半年ほど期間がありまして。その間に作品への思い入れが深くなり過ぎたので、稽古を始める時はその気持ちを1回置いて臨もう、と。僕が戯曲を読んで抱いた感覚を、より分かりやすく皆さんに届けるにはどうしたらいいか? そこを模索する作業から始まりましたね」 ──具体的にどのようなことをされたのでしょう? 「まず、この戯曲は抽象的な表現が多くて。例えば、僕が演じさせてもらう主人公は名前がないんですよ」 ──某氏という、まさに抽象的な名称ですね。 「稽古を進める前に、演出家のジョナサン・マンビィさんから『某氏は誰と暮らしていたのか?』『その相手の名前は何か?』を考えるだけでなく、『彼がどういう人生を歩んできたのかを想像して年表を作ってみよう』と提案をしてくださいました。どんな場所で暮らしていて、何歳ぐらいに彼女と結婚して、いつ頃彼女と別れて…という全部のプロセスをみんなで考えるという、丁寧な稽古をつけてくださったんです。なおかつ、某氏が思いを馳せる彼女は劇中では登場しないんですけど、彼女役として女優さんに稽古場に来ていただいて。『セットの上で2人がどんな暮らしをしていたのかやってみよう』『彼女役の方と2人で買い物へ行ってみよう』などの演出をしていただきました。その後に『彼女と過ごしていた一連の動作を、今度は彼女なしでやってみて』と言われて、その時とてつもない喪失感が込み上げてきましたね」 ──作品や役の理解を深めるために、某氏と彼女の日常を擬似体験されたと。 「はい。しかも、翻訳家の広田敦郎さんも稽古場に毎日いてくださるので『戯曲を英文で読んでいるマンビィさんと、翻訳を読んでいる僕たちの解釈が微妙に違うかも?』となった時に、その場で『こっちの日本語の方が適切かもしれないですね』と提案して、本来の戯曲に歩み寄る作業ができた。演出家、翻訳家、俳優でその作品をより正しく、よりよい形で伝える方法は何かを常に考えられる環境だったのは、本当にありがたいですね」