伊藤忠、双日、味の素…なぜフィンランドに投資が集まるのか。「SDGsランキング連続1位」の国が持つ可能性
ディープテック企業続々の背景に「国立研究所」
これまで紹介した3社には、日本企業が出資している点以外にも共通点がある。フィンランド技術研究センター(VTT)が関係する、「官民連携のイノベーション創出」事例なのだ。ハイカマイトとソーラーフーズの創業者はもともとVTTの研究員だった。 VTTはフィンランド政府直営の研究所で、2024年10月時点で2000人以上、世界トップクラスの専門家が在籍する。研究員の国籍は日本も含め38カ国。2023年の売上高は2億8400万ユーロ(約462億7439万円)で、海外売上比率は45%を占める。創設は第二次世界大戦中の1942年と古く、大学との違いは「研究成果のビジネスや社会での活用を第一にしていること」。 私が訪れたのは、フィンランドで2番目に人口が多い都市、エスポーにあるVTTビオルッキ(Bioruukki)。2015年に設立された、北欧最大のバイオおよびサーキュラーエコノミー研究施設だ。 「政府の補助金のほかに、民間企業との共同研究による収入、技術移転によるライセンス収入、ベンチャーなどへの出資を通じた収入の大きく3つがあります」とアリ・ハーリン研究教授(サステナブル製品、素材担当)は説明する。 この日何度も聞いたのが、「VTTは実用化に重点を置いた研究機関である」こと。2026年にはVTTビオルッキにクリーンエネルギーパイロットプラットフォームが建設予定。輸送と産業におけるカーボンニュートラルを目指す新たな研究施設が生まれる。
ロシアからの輸入停止でも再エネ率は95%
2023年には、フィンランドの電力の94%がすでに化石燃料を使用しておらず、電力生産によるCO2排出量は2010年と比べて87%減少した。 フィンランドの目標は「2035年までにCO2排出量を実質ゼロにする」ことだが、気候・環境大臣のカイ・ミッカネン氏は「エネルギー分野では、最新のエネルギー産業協会の見解によれば、2035年までにCO2排出量をゼロに達成するだけでなくむしろマイナスに転じる可能性もある」と話す。 もちろんフィンランドも他国と同様、厳しい状況にある。2021年のエネルギー消費のうち、34%がロシアからの輸入資源に依存しており、その約90%は天然ガスだった。ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシアからの輸入は完全にストップした。 「ドイツ、中欧諸国と比べれば状況は良い方です。ウクライナ侵攻前から私たちは風力、太陽光、水力、そして原子力も含む再エネにシフトを進めていました」(カイ・ミッカネン氏) 10月初旬でも最高気温10度が日常というフィンランドで、脱炭素のカギを握るのは「暖房と工業」だとミッカネン氏は言う。例えばヘルシンキ市が保有するエネルギー企業は2023年、地域の暖房エネルギー源として小型モジュール原子炉(SMR)建設を発表した。