「箱根を走る彼らはプロランナーではなくアマチュアの選手」伝説のプロデューサーらが語る箱根駅伝
第100回大会と能登半島地震
田中 2024年の第100回大会は、元旦に能登半島地震が起きたことで、現在進行形の災害報道と箱根駅伝の中継が重なるという特別なものになったと思います。聞いたところでは、ぎりぎりまで様々なケースを想定して議論をしていたようでした。「災害を伝える」という「報道」の使命がある。一方で、中継を成立させるためにスポンサーとビジネスをしている「営業」の立場もある。テレビ局内の編成という部署が最終的な判断を下したんですが、私はとてもいい中継だったと思っています。 坂田 僕もそう思います。これ以上、災害の被害がひどくならないように、と祈りながら見ていました。なにかあったら、駅伝中継は切り上げて災害を報道する。それは当たり前のことで、生中継というのはそういうことに対応できる一面もありますからね。 田中 今年ご覧になっていてどう感じましたか? 坂田 第100回大会は、復路で8位以下の16チームが一斉スタートすることになりましたよね。つまりシード権争いがとても複雑になり、例年になく多くのチームの多くの選手が画面に出てきました。それでもスタッフたちが、各チームのそれぞれの選手をよく取材して、いい話をたくさん仕入れていましたね。 田中 さきほども言いましたが、私は、個人のドラマをどう伝えられるか、に注目して見ていました。「仲間たちの汗が染みついたこのたすきを」なんて、誰が走っていても言えるセリフを絶対に言っちゃダメなんです。その選手が卒業後、どこどこに就職します、だけでもいい。 もう一つ言えば、ふるさとで見ているランナーのご家族のことを考えれば、活躍をちゃんと伝えなきゃいけない。長いコメントだと使えないことが多いから、3秒で選手のことを伝えるフレーズを用意しておくといいんですよね。こんなことばっかり考えて中継を見ているから、終わったらぐったりですよ(笑)。 (対談日:2024年1月12日)
「文春文庫」編集部,原島 由美子/文春文庫