プロ選手が“引退”を決めるとき―元Jリーガー西村さんが歩み始めた新たな春
サッカーJ2名古屋グランパスの元GK西村弘司さん(32)は今春、同クラブ社員の広報スタッフとして、第二の人生を歩み始めた。子どものころから28年間、サッカーで駆け回っていたこれまでとは違うオフィス中心の生活。「何もかもが新鮮」と充実感を感じている。選手から裏方に進んだ決断の裏には、現実を受け入れる心境の変化や、家族からの助言があった。
2年前にターニングポイント 現実に向き合う 心境の変化も自覚
三重県出身。4歳のころからサッカーボールを蹴っていた。「外遊びが好きなタイプで、サッカーはボールが1つあれば、特別な道具をそろえなくても遊べた」と、サッカーとの出会いを振り返る。小学3年で地元の河合サッカーSSに所属。阿山中から四日市中央工高、京都サンガF.C.(2004~07シーズン)、名古屋グランパス(08~16シーズン)と、現役生活を続けてきた。 ターニングポイントは、2015シーズン終了時にクラブから契約満了を告げられた時だった。クラブユースのコーチという案も提示されたが「現役であり続けたい」と断った。その後Jリーグで契約満了・戦力外通告を受けた選手が、新たな所属先を求めて各クラブの関係者にプレーを披露する選手選考会・Jリーグ合同トライアウトに参加。名古屋と再契約を果たした。 再起を誓った16シーズンだったが、出場試合数はカップ戦の1回にとどまり、シーズン終了で再び契約満了となった。このとき、心境の変化に気づく。「15シーズンの時のように、トライアウトに参加するという選択肢もあったのに、しようとは思わなかった」。結果が残せなかった自分と向き合った。
わが子の期待、募る悔しさ……妻の一言で第二の人生決断へ
契約満了後、受け入れてくれるチームを探してみるが、誘いはゼロ。何かと気にかけてくれる名古屋のスタッフとは、情報交換を続けていた。そんなある日、一つの提案を受けた。「クラブの社員として働くという気はないか」と。「ありがたい話だ」と感謝を伝えるが、いったん話は自宅に持ち帰った。 妻と子ども2人の4人家族。特に、父親が試合に出場する姿を待ち望んでいた小学生の長男は「(父親が)サッカー選手でなくなる」と残念がった。自身も「子どもにサッカーをする姿を見せて喜ばせたい」という考えが捨てきれず、サッカーをしたくてもできない現状に、悔しさを募らせた。そこに、ずっと支えてきた妻の一言が、心に響く。「今の悔しい気持ちは、第二の人生で晴らせるかもしれない」 ── 。新しい人生を踏み出すきっかけになった。