稲垣栄洋 なぜ「雑草」はジャングルや森林に生えないのか?<雑草は強い>という印象が決して正しいとは言えない特殊な事情
朝ドラ『らんまん』では、日本植物分類学の基礎を築いた一人・牧野富太郎博士をモデルとした主人公、牧野万太郎が日本各地で植物を採取し、植物図鑑を完成させるまでの生涯が描かれました。ドラマ内では「雑草という草はない」という名言も飛び出しましたが、植物学者として、むしろ“雑草戦略”で生き抜いてきたのが静岡大学教授で作家、「みちくさ研究家」の稲垣栄洋先生です。ただ稲垣先生曰く、雑草と呼ばれる植物は、基本的に「弱い植物」だそうで――。 稲垣先生の著書『雑草学のセンセイは「みちくさ研究家」』 * * * * * * * ◆ジャングル芋掘り ある十月の日曜日。どこから呼んできたのか、子どもたちが集まった。子どもたちと関わる学生サークルの協力で集めたらしい。 男の子も女の子も、雑草だらけの畑を前に立ち尽くしている。そんな中、研究室の先輩が子どもたちに呼びかけた。 「この畑の中にサツマイモが隠されているよ! さぁ、サツマイモを見つけよう!」 ジャングル芋掘りの始まりである。 ジャングルのように生い茂った草むらの中をかき分けて、サツマイモを見つけるのだ。 どこにあるか、わからないから宝探しゲームのようでもあって、子どもたちは大喜びだ。飛び跳ねるバッタを追いかけている子どももいる。 こんな雑草の中でも、サツマイモはしっかりと芋を作っているからすごい。思った以上にたくさんのサツマイモが収穫できた。
◆「ジャングル芋掘り」は「子どもを活用した生物的防除法」 収穫した芋は、イチョウ並木の落ち葉を拾ってきて、みんなで焼き芋だ。ほくほくの焼き芋をほおばって、お土産にサツマイモももらって、子どもたちは満足そうに帰って行った。 そして、その後には……。 見事なまでにきれいに、雑草が抜き去られた畑が残ったのである。 そう、「ジャングル芋掘り」は、子どもたちに草取りをしてもらうためのイベントだったのである。 雑草の管理方法において、除草剤の使用は、化学的防除法と呼ばれている。また、ビニールマルチなどで雑草を防ぐ方法は、物理的防除法と呼ばれている。 これに対して、アイガモで水田の除草をしたり、ヤギに雑草を食べさせたりする方法は、生物的防除法と呼ばれている。 私たちは「ジャングル芋掘り」のことを「子どもを活用した生物的防除法」と専門的に呼んでいた。