【書評】思考と行動をつなぐ:柴崎友香著『あらゆることは今起こる』
「あんた、ずっと大変そうやったもんな」
柴崎さんは、発達障害の診断を受けたことを家族に伝えたとき、弟にこう言われたそうだ。 「そうなんや。あんた、ずっと大変そうやったもんな」 “大変”。 それは、周りと同じように行動できないから。社会の規範を守れない時があるから。「こうしなければいけない」の型に合わずに四苦八苦する姉の様子を、弟はそう見ていた。 柴崎さん自身、発達障害が「できない」ことばかりを、その要素に挙げられていると指摘する。そしていつしか自らも、自分が困っていることを「できないこと」と考えてしまい、恥じて隠そうとしてきた、とも。 発達障害という言葉が広がるのと同じタイミングで、多様性(ダイバーシティ)とかインクルージョンという言葉も広がってきた。これらは、実は関係があるのではないか。 人の行動の特徴を、目に見える「点」で捉えて周囲と比較するから、「できる」と「できない」という分類になる──たとえば時間に間に合うと間に合わない、部屋がきれいと汚いなど──とすると、点ではなく、思考と行動を結んだ線を捉えていくことでこの二分法も変わっていくんじゃないか。本書を読み、そう感じた。 そして、「できる・できない」の二分法から自由になった先に、ダイバーシティ&インクルージョンが待っているような気がする。
【Profile】
幸脇 啓子 編集者。東京大学文学部卒業後、文藝春秋で『Sports Graphic Number』などを経て、『文藝春秋』で編集次長を務める。2017年、独立。スポーツや文化、経済の取材を重ね、ノンフィクション作品に魅了される。22年春より、長野県軽井沢町在住