【書評】思考と行動をつなぐ:柴崎友香著『あらゆることは今起こる』
思考と行動を言葉でつなぐ
柴崎さんの場合、何に困っていたか。それは「一日にできることがとても少ない」ことだった。 その時点で、「多動」、いわばマルチタスクが特性とされる発達障害のイメージとやや異なり、「えっ?」となる。だからこそ、言葉のプロである著者が自らの発達障害について本を書く意味があると思う。 メディアなどではステレオタオイプ化されて扱われやすく(映画『レインマン』のような天才型とか)、「〇個当てはまると発達障害の可能性が高い」などという診断表も多く出回る発達障害だが、当事者の目に世界はどう映り、何に困っていて、どんなふうに考えているのか。柴崎さん自身の視点や感覚に加え、医師やカウンセラーとのやりとり、周囲からの関わりなども含めて丁寧に描かれる。 例えば柴崎さんが感じている「一日にできることがとても少ない」のはなぜか。 「多動」は頭の中で起きているのだった。(中略)とりあえず、常に複数の考えがランダムに流れ続けているし、なにか外からの刺激があるとさらに次々思い浮かぶ。それは必ずしも言葉や文章になっているわけではなく、身体感覚そのものだったりもする(あのときのあの暑さ、とか)。 その結果として、 「身体は一歩も動けないまま時間が経って、そして洋服の山も片づかない」 頭の中で起きていることを言語化してもらうことで、読み手には自分とは遠く離れたところで起きている誰かの障害の話ではなく、自分と同じ世界にいる他の人の物語としての納得感が生まれてくる。 例えば、旭川駅から美瑛(びえい)駅に向かう時。余裕があるからと旭川駅でのんびりした後、電光掲示板で確かめたはずが(おそらくきちんと確認できていなくて)なぜか同じ時刻に出発する別の電車に乗ってしまい、反対方向に行ってしまうとか。 出かける準備をしていると、雨が降ったらとか、エアコン効きすぎて寒かったらなどいろいろ気になってあれこれ詰め込み、肝心のおみやげを入れ忘れてしまうとか。 点で切り取ると「遅刻が多い」とか「忘れ物が多い」とか、発達障害の特性とされることが多い事象が、柴崎さんの思考と言葉でつながれると、「ああ、そう考えるからこういう結果につながるのか」とか、「あっ、そこでミスってるわけか」と、ぐっと距離が縮まってくる。