ウクライナに侵攻したロシアへの制裁、結局は中国・インドが漁夫の利を得た 崩壊しなかったロシア経済、なぜ制裁は抜け道だらけとなったのか
▽中国車輸出先トップ 制裁に参加しているのは世界で四十数カ国しかなく、参加していない国が対ロ貿易などを通じて利益を得ていることは明らかだ。欧米、日本からの輸入車が激減したことでロシアでの中国車シェアは急上昇。今年上半期に日本を抜き世界最大の自動車輸出国になった中国の最大の輸出先はロシアだ。では制裁に参加していない国は具体的にどの程度の利益を得ているのか。 カナダ銀行(中央銀行)は8月23日、「国際経済制裁と第三国への効果」と題する論文を発表。共同筆者である同銀行シニアエコノミストのガリップ・ケマル・オズハン、米ワシントン大教授のファビオ・ギローニ、ノースカロライナ州立大助教のダイスン・キムの3氏は、米英両国、EU加盟国を制裁国、ロシアを被制裁国、中国、インド、トルコを制裁に参加しない第三国と規定した上で、制裁の効果がそれぞれのグループに与える効果を推計した。 消費物資の貿易制限、金融制裁、天然ガス禁輸の三つの制裁を科した場合、ロシアは理論上、中国などの第三国グループが制裁に参加した場合、人口当たりのGDPが9%減少するのに対し、参加しない場合は4%減にとどまる。
一方、第三国グループについては、制裁に参加すれば0・8%減となるものの、参加しないことで対ロ貿易が増加、安価なロシア産天然ガスを輸入できることで、逆にGDPは0・4%押し上げられる。米国など制裁する側はいずれのケースでも0・8%近い損失を被る。 ▽構造的欠陥 ロシア経済などの調査・分析を行っているシンクタンク「ロシアNIS経済研究所」の中居孝文所長は「ロシアの継戦能力を奪うという面からは、制裁は成功していない」と語る。 ロシアが制裁の影響を緩和できた理由について「中央銀行の急速な利上げなど迅速な金融・財政政策が奏功し、侵攻直後の危機的状況を乗り切った。貿易相手をそれまでの欧州中心から中国などグローバルサウス(新興・途上国)にシフトできたことも大きかった」と指摘。 さらに「ロシアが(拒否権のある)国連安全保障理事会常任理事国であることから、安保理決議による制裁ができず、いわば有志国による制裁となってしまった。制裁に有志国以外が加わっていないことに、そもそも大きな問題があった」と現在の制裁体制の構造的欠陥を強調した。